グルメドラマ。古くは「ランチの女王」や「王様のレストラン」、比較的最近では「天皇の料理番」に「グランメゾン東京」とヒット作が多数。中でもシーズン9を数える「孤独のグルメ」はその筆頭ではないかと思われる。ドラマパートもあるが、基本は松重豊扮(ふん)する会社員がただただご飯を食べるドラマ。その食べっぷりとともに実際にあるお店をロケ場所に使うことで臨場感が生まれ、長く愛されるドラマになったのだろう。

YouTubeなどでも「たっちゃんねる」はじめ、食べることを中心とする動画があるが、これらは全て「孤独のグルメ」の影響を受けているに違いない。

そこで新たに1本紹介したい。2019年に放送され、昨年にシーズン2、そして現在2本目となる映画が公開中のドラマ「おいしい給食」。舞台は80年代、テーマとなるのは中学校の給食。給食を最大の楽しみにしている教師と一人の生徒が食べ方を巡ってバトルをするという、新ジャンルのグルメドラマである。

給食自体、ほとんどの人が体験していて、一番身近な共有できるグルメではないかと思う。いいところに目を付けたなと、そしてその丁寧な作りにも好感が持てる。

さて今回取り上げるのは、「おいしい給食」で主演を務める市原隼人。映画「リリイ・シュシュのすべて」で鮮烈デビュー。岩井俊二が描くその繊細な物語にシンクロし、次世代のスターが現れたと記憶している。その後ドラマ「WATER BOYS2」で主演を務め、社会現象にもなったドラマ「ROOKIES」では主演ではないものの、安仁屋恵壹役で一躍人気者に。

その後も民放ドラマで次々に主演を務めるが、そこまでの当たり役はなく、気付いたら同世代の俳優に追い越されていった印象があった。そこで今回のドラマ、放送もテレビ神奈川とこれまでのキャリアを考えれば寂しい気もするが、主人公・甘利田幸男(あまりだ ゆきお)を演じる市原はイキイキとしている。

中学校の教師ながら、給食に関して生徒・神野をライバル視し、その大人げない所作が何ともハマっている。その真っすぐな視線が、給食と少し生意気な生徒に向けられることで、どこかギャップが生まれクセになってついつい見てしまう。

演出の力もあるが、こういった役もハマるんだと正直思った。また、昨年公開の映画「ヤクザと家族」では綾野剛演じる主人公の仲間役、どちらかというと舎弟に近い役柄であったが、その姿もよく、今期の「正直不動産」でも主人公のライバル役を好演している。

恒例のサッカーに例えると、攻撃的選手として脚光を浴びるが、気付いたら多彩なプレースタイルと共に中盤から最終ラインまで務められるユーティリティー・プレーヤーに変貌といったところか。実際の選手でいえば、プロに入った当初は和製カカと言われていたが、徐々にポジションを変え、今なおドイツで活躍する長谷部誠に近いのではないかと思う。

これからもドラマや映画の中心として、そして時には役割を変え活躍するに違いない。今後も目が離せない俳優さんです。


◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーに。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。今年は2月に演出舞台「政見放送」を上演、5月20日には最新監督映画「さよならグッド・バイ」が公開された。8月には演出舞台「ハイスクール・ハイ・ライフ」の製作も決定している。カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営中。