森喜朗氏(東京オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長=83)の女性蔑視発言が今月、ワイドショーで大きく取り上げられました。中でも、海外の反響は注目トピックのひとつでしたが、それをどう和訳して放送するかは番組によって異なっています。ざっくり見比べると、シンプル派と演出派に分かれていて、番組カラーの違いを興味深く視聴しました。

違いが分かりやすかったのは、2月5日の各番組。「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という森氏の発言を受け、カナダの女性IOC委員、ヘイリー・ウィッケンハイザー氏のツイートが一斉に取り上げられました。

元通訳によれば、ヘイリー氏の原文は考えをシンプルに述べたもので、決してブチギレているニュアンスではないとのこと。訳し方で高評価としたのはテレビ朝日「グッド!モーニング」で、「絶対に朝食会のビュッフェでこの人を問い詰めます。東京で会いましょう!」というシンプルなもの。男性アナがニュース原稿として読み上げるスタイルも、脱バイアスが感じられてシンプルです。

同じ局でも、「モーニングショー」は「この男を追いつめるわ」と女性言葉で和訳。「this guy」も「この男」とし、テイストはだいぶ違います。ちなみに同局「ワイドスクランブル」は「この男性」で、「朝食会のビュッフェでこの男性を追い詰めます絶対に」。なぜか「絶対に」の部分を赤く大きなフォントで目立たせています。

日本テレビは、声優風な演出を好む傾向。「news.every」は「絶対にこの男を問い詰めてやる」と、海外ドラマのティーン風なしゃべり方。ヘイリー氏のツイッターの顔写真とはイメージが違う気がしますが、語尾は「やる」と一段強めです。「スッキリ」は「絶対にこの男を朝食会ビュッフェで追いつめるわ」と女性言葉。メラメラと怒りに燃える中高年女性風です。

女性言葉に限って言えば、TBSは、昔から安易に使わない印象。「グッとラック!」は「この男を朝食ビュッフェ会場で必ず追い詰めます。東京で会いましょう!」といたってシンプル。「サンデー・ジャポン」も、お色気カメラワークの一方で、和訳自体は「朝食のビュッフェ会場でこの男を間違いなく追い詰めます」と、女性言葉ではありません。

要は番組カラーやプロデューサーの方針によるということです。あるワイドショー関係者は「どの番組も自社の通訳スタッフや契約している通訳会社に発注するケースがほとんどだろうが、通訳は淡々と訳してくるもの。女性言葉で訳してくることも絶対にない」。その上で「意訳したり女性言葉にしたり、番組としてどう伝えるかはプロデューサーの裁量の中にある。誤訳でない限り、演出の範囲内ということ」。

海外のIOC委員も怒っている、という事実だけで十分インパクトはあるので、あえて盛った意訳をしたり、女性言葉で感情的に演出することもないような。女性言葉に関して言えば、ネット上でも「なんでこんなふうに訳すの」「女らしさを押しつけないで」などと、一定の違和感で語られてもいます。

登場人物が複数いる海外ミステリーなどでは女性言葉は効果的に機能しますが、リアルな女性要人の発言にはそぐわない感じ。そもそも「~だわ」というコテコテの女性言葉で話す人って、現実にはほとんどいないんですよね。テニスの大坂なおみ選手の発言も「知りたいわ」「感じたわ」「思うわ」と女性言葉で訳されていましたが、普通に「知りたいです」「感じました」「思います」の方がスッと耳に入ります。単に送り手側の習慣なのかもしれませんが、そろそろこの手の訳し方もアップデートする時期かと感じます。

で、本紙はどう訳しているのか調べたところ、ウェブ版で「この人を間違いなく問い詰めてやるわ」。よそ様のことを言える立場にないことが判明。もやもやが続いています。【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)