10月期の秋ドラマが出そろった。病院モノ多発で見応えが散らばる一方で、王道ラブストーリー「silent」(フジテレビ)の挑戦や、長澤まさみの4年半ぶり連ドラ主演作「エルピス」(フジテレビ)の切れ味など、オリジナル脚本に攻めた作品がそろった印象だ。「勝手にドラマ評」52弾。今回も単なるドラマおたくの立場からあれこれ言い、★をつけてみた(シリーズもの、深夜枠は除く)。
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◆「PICU 小児集中治療室」(フジテレビ系、月曜9時)吉沢亮/安田顕
★★☆☆☆
小児集中治療室に異動になった若き医師の成長物語。中島みゆきの主題歌で過疎医療という「Dr.コトー」のフォーマットに小児医療という大テーマを乗せ、家族テーマの「監察医 朝顔」も盛り込んだデコラティブな味わい。主人公(吉沢亮)の熱い涙と、指導医(安田顕)の静かな涙。師弟ともに常に泣いているのは、もはや泣いていないのと同じな気がする。医療ドラマであり、自己啓発的なヒーリングドラマでありの印象。「初めてでした。こんなに自分がばかだと思ったのも、嫌いになったのも」。吉沢亮が表現する若き医師の苦悩が、北海道の広い景色とよく合っているのは尊い。
◆「エルピス-希望、あるいは災い-」(フジテレビ系、月曜10時)長澤まさみ/眞栄田郷敦/鈴木亮平
★★★★★
冤罪事件の真相を追うテレビマンたちの戦い。組織にすっかり精神を削られた女性アナの悲哀を4年ぶり連ドラ主演の長澤まさみがひりひりと演じ、理不尽を飲み込みすぎて本当に吐くギリギリ感と、鋼のような強さのバランスがかっこいい。深夜バラエティー班の眞栄田郷敦がトホホな動機で冤罪(えんざい)調査にヒロインを巻き込む導入がうまく、いかにも報道局にいそうな鈴木亮平もキレキレの存在感。業界カルチャーと個々のキャラクターがよく分かる会話を入り口に“国家権力とマスコミ”の大問題に斬り込む渡辺あや脚本のすごみ。失った自分の価値をどう取り戻すのか、最後までこのヒロインについていく。
◆「君の花になる」(TBS系、火曜10時)本田翼/高橋文哉
★★☆☆☆
7人組ボーイズグループの寮母になったヒロインが、共同生活で夢をサポート。劇中グループ「8LOOM(ブルーム)」がドラマと連動してリアルに音楽活動をし、音源やグッズの販売、ライブなどでヒットを目指す異色の挑戦。ドラマはSNSのきっかけ作りに特化しているのか、フラッシュモブで愛の告白、よろけて床ドン、酔っておんぶ、男子の着替えにキャッ、というベタの数珠つなぎ。「あんたの夢も俺がかなえてやるよ」と耳元でささやく年下男子と、「自分にハナマルつけられる人になるっ」と張り切る本田翼。アイドル育成ゲームが好きな人や、男子部のマネジャーにあこがれるタイプの人にはハマるテイスト。
◆「ファーストペンギン!」(日本テレビ系、水曜10時)奈緒/堤真一
★★★★☆
荒くれ漁師を率いて漁港を立て直したシングルマザーの実話。男社会×閉鎖社会というニッポンの縮図に“ファーストペンギン”として斬り込んだヒロインが、禁じ手×素人手法ですごい戦いぶり。足元の突破口から国にたどり着く行動力、守旧派の仕打ちへの怒り、頼んでおいて戦わないおっさんズへの悔し涙など、生命力あふれる女性像を奈緒が生き生きと見せてくれる。「アンタなんかクソ野郎ですらないわ、ただのクソだよクソ」。滑舌がいいので、勢いのあるせりふが輝くのも好感。面倒臭いおっさんズが後続ペンギンのように追いかけてきた3話は泣けた。
◆「親愛なる僕へ殺意をこめて」(フジテレビ系、水曜10時)山田涼介/川栄李奈
★★★☆☆
猟奇殺人は自分がやったのか、二重人格者が真相を追う。原作マンガはハードな事件描写とヘタレのギャグ要素が絶妙に調和するのだが、映像になると、怖さとコミカルの行き来が激しく、ついていくのに大変。拷問シーンや死体描写など、この時間帯のドラマとしてはかなり攻めているので、個人的にはNetflixっぽいダークミステリーの方向性で山田涼介の新境地を見てみたかった。原作の強キャラ女子を引っ込めてまで作ったオリジナルヒロインが少々魅力薄で、女子キャラにわくわくできないのは同性としてつらい。4話でようやく別人格の「B一」登場。2つの人格がどんな真実にたどり着くかもう少し見る。
◆「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系、木曜9時)岡田将生/中井貴一
★★★★☆
「ドクターX」のナース版。失敗しないエリートナースのお話かと思ったら、謎すぎるおじさんナースとのケミストリーという脚本の破壊力に噴く。執事みたいな物腰で医師を操る中井貴一、女子寮にプリティーになじむ中井貴一、裏の顔がおっかない中井貴一。現状、中井貴一劇場みたいな展開だが、主演の岡田将生は変な人に振り回されて輝く貴重なイケメンなのでこれでOK。「ムダにプライドが高いだけのバカナース」が確定した2話以降、エリートがどう覚醒し、組織を変えていくか楽しみ。7時台の「サラメシ」から、木曜は中井貴一の濃度がすごい。
◆「silent」(フジテレビ系、木曜10時)川口春奈/目黒蓮/鈴鹿央士
★★★★★
こんな正々堂々としたラブストーリーを見るのは久しぶり。再会した元カレは聴力を失っていたという設定の中、8年前には聞けなかった互いの思いが動きだす。ヒロイン川口春奈、元カレ目黒蓮、今カレ鈴鹿央士が陥った三角関係が切なく、人を好きになることでしか描けない涙と体温がぐいぐい来る。脚本はこれがデビュー作の新人。SNS狙いのキュン要素など一切なく、手垢のついていない物語の輝きでSNSを沸かせていて涙が出そう。倍速視聴時代でドラマ界が失った余白や余韻に人物が宿り、踏切や坂道、風が冷たそうな空など、当たり前の東京の風景も美しい。こんな挑戦をフジにやられて、悔しい思いをしている制作者も多いのでは。
◆「クロサギ」(TBS系、金曜10時)平野紫耀/黒島結菜
★★★★☆
詐欺師をだます詐欺師、クロサギの勧善懲悪。山下智久(06年)の当たり役に平野紫耀が挑み、華のある大胆不敵キャラは令和のクロサギとして魅力的。「完全版」となる今回は、家族を奪った宿敵との対決も縦軸として描かれ、きれいごとに対して「それで済むなら幸せな人生」と語る悲しさも伝わってきた。仮想通貨やネットバンキングなど、ガラケー時代にはなかったツールも出てはくるが、ベテラン詐欺師たちのクラシカルな手口が多め。1話の融資詐欺でだまし取る現金が06年より少なく、デフレを実感。オープニングのアニメが06年版と同じでわくわくした。
◆「祈りのカルテ~研修医の謎解き診察記録~」(日本テレビ系、土曜10時)玉森裕太/池田エライザ
★★★☆☆
ワケあり患者たち心の謎を、ひよっこ研修医がカルテから推理。精神科、外科、産婦人科など、研修先を通してさまざまな診療科目をツアーするフォーマットはお得感があるが、「隠していたのは夫のDV」など、描く人間ドラマが類型的でちょっと残念。「謎解き」メインの軽いテイストとはいえ、医者が人助けで診断に手心を加える展開は医療ドラマとして無理があり、「カルテがすべて教えてくれました!」のカタルシスが弱い。5人もいる同期の研修医がサークルみたいに楽しそうで本線にからんでこないので、玉森くんの負担がいろいろ大きい。
◆「アトムの童」(TBS系、日曜9時)山崎賢人/松下洸平/岸井ゆきの
★★★★☆
零細が技術力で巨大企業に挑むいつもの日曜劇場ではあるが、今回はゲーム開発を舞台にした20代若者たちの挑戦。「アイデアで勝つ」という将来性のある戦いは見ていてすがすがしい。攻撃的な天才(山崎賢人)と、こつこつガードで勝つ天才(松下洸平)。無双のコンビネーションに絵ヂカラがあり、こじれていた2人の青春が再び動きだした2話は心躍った。ヒール役の香川照之降板というトピックがあったものの、結果的にオダギリジョーで大正解。年齢的、ルックス的にしっかりIT企業社長に見え、このドライさがいかにも手ごわい。日曜劇場が変顔、土下座の香川節に依存する理由はもうないように見える。
◆「霊媒探偵・城塚翡翠」(日本テレビ系、日曜10時半)清原果耶/瀬戸康史
★★★☆☆
霊能者×ミステリー作家の事件推理。降霊で犯人を突き止め、作家が論証という世界観は映像向き。圧倒的な奥行きの応接空間、陰影のある喫茶店風景など、美しい舞台美術は今期の中でも群を抜き、原作小説が生き生きと視覚的に立ち上がる。オカルトなのか理系なのか、翡翠先生の格調を清原果耶が正確につかんでいて、三島文学のようなブルジョアな日本語がしっくりくるのもいい。霊視して「住んでいる場所に問題がある」みたいなせりふが続くと、時節柄、霊感商法を想起しがちでタイミングが悪い。この作品の真骨頂はこれからだと思うので、最後まで見る。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)













