約300万円と低予算で製作され、6月23日から東京都内の劇場2館で上映が始まったインディーズ映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)が、口コミで人気が拡大したことを受け、アスミック・エースが共同配給に乗り出し、TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ日比谷など全国40館の劇場で拡大上映されることが決まった。25日にアスミック・エースが発表した。

 「カメラを止めるな!」は、新人監督と俳優を養成するスクール「ENBUゼミナール」の映画企画第7弾。上田慎一郎監督(34)が、13年に小劇団の舞台に着想を受けて発案した企画を元に、17年4月にオーディションでメインキャスト12人の俳優を選び、映画の製作を前提としたワークショップを開催。12人の俳優を当て書きする形で、登場人物を描いた脚本を上田監督が書き、その直しとリハーサルを繰り返して俳優とともに作り上げた。製作費は、ワークショップに参加した俳優の受講料とクラウドファウンディングで集めた150万円強などを含めた、約300万円と低予算で製作された。

 物語は、山奥の廃虚を舞台に、37分間ワンシーン・ワンカットでゾンビサバイバル映画を撮影する、自主映画撮影隊を描いた。監督が本物の映画作りを追求するあまり、テイクが42にも及ぶうちに、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる中、大喜びで撮影を続ける監督と、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々を描いた。

 ゾンビ映画の恐怖感はもちろん、監督、俳優陣をはじめとした製作陣の狂気とも言える奮闘ぶりを、映画製作の現実味あふれる舞台裏まで克明に描いた作品は、ノンストップな展開と、物語が途中で大どんでん返しを迎えるところに至るまでの、他に類を見ない緻密な構造で作り出された脚本の妙が専門家筋や業界で話題となった。本広克行、犬童一心、深田晃司、吉田大八、品川ヒロシら著名な監督たち、水野美紀をはじめとした俳優陣、水道橋博士ら映画に造詣の深い芸能人、評論家から賛辞の声が相次ぎ、17年11月に同劇場で6日間限定で行われたイベント上映で話題が沸騰。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でゆうばりファンタランド大賞(観客賞)、イタリア・ウディネ・ファーイースト映画祭シルバーマルベリー観客賞2位など、国内外の各映画祭で評価された。

 東京・新宿K’sシネマでは、公開初日の6月23日から上映が72回連続満席という驚異的な人気ぶりを見せつけ、全国8館での上映にもかかわらず、22日時点で動員2万4928人、興行収入3858万5390円を記録。興行通信社が発表した21、22日の週末観客動員数ミニシアターランキングでは1位となった。映画の魅力に“感染”した観客の列が全国で絶えず、チケットは連日即完売で、今、最も見たい…でも、最も見ることが難しいと言っても過言ではない映画とSNSを中心に話題が沸騰し、アスミック・エースがENBUゼミナールとの共同配給に乗り出した。

 上田監督は中学時代に自主映画の製作を始め、高校卒業後も独学で映画を学び、11年に長編映画「お米とおっぱい」を製作した。同作を含め、これまで8本の映画を製作してきたが、事業の失敗から一時はホームレスになり、映画の製作からも離れた時期があったという。妻のふくだみゆき監督が製作した17年2月公開のフラッシュアニメ映画「こんぷれっくす×コンプレックス」ではプロデューサーを務めたが、ふくだ監督が同3月に長男を出産したのと、ほぼ同じタイミングで劇場用長編映画デビュー作「カメラを止めるな!」の製作に取り組んだ。

 今回の拡大上映を受けて、上田監督は「去年の夏、汗と血にまみれながら、みんなでつくった小さな映画『カメラを止めるな!』は今日まで僕たちの想像を超える奇跡を次々に起こしてくれました。『想像もしていませんでした』と何度、言ってきたことでしょう。一生分の『想像もしていませんでした』を使い果たした…と思っていた矢先に今回のお話。間違いなく僕の34年の人生史上最大の『想像もしていませんでした』となりました」とコメントした。