坂東玉三郎(68)が次世代への芸の継承をテーマに、「十二月大歌舞伎」(12月2~26日、東京・歌舞伎座)に挑む。このほど、取材会で思いをじっくり聞いた。

玉三郎は「芸の継承、と言うと大げさですが…」と切り出した。夜の部の「壇浦兜軍記 阿古屋」で演じる阿古屋は、「三曲」と呼ばれる琴、三味線、胡弓(こきゅう)を実際に演奏する女形の大役で難役。97年以降の21年間は玉三郎だけが演じてきたが、12月は日程で配役を分け、玉三郎、中村梅枝、中村児太郎の3人がつとめる。

玉三郎は「私が元気でいられるうちに見てもらって、受け取ってもらいたい」と話した。この役を6代目中村歌右衛門さん(01年に死去)から教わった時、歌右衛門さんは体調を悪くしていたというだけに、「立ってやって、見てあげられる時に」という思いは強い。

自分の芸を受け取ってくれる人を、と探していたが、阿古屋は、琴、三味線、胡弓を弾けなくてはいけない。玉三郎いわく「手当たり次第に『やれないの?』と聞いていました」と笑う。これまでに2人ほど、ギブアップした役者がいたそうだ。

同時代に阿古屋を演じるのは1人だけという時代が長く続いたが、玉三郎は「この人しかやらないという出し物って、今の時代はもういいと思います。そういう観念はもう…。大役をいろんな劇場でいっぱいやれる時代がやってこないと、幅が広がらない。三曲を弾ければ(阿古屋を演じられる)可能性があると思ってもらいたい」と話す。

大役に挑む梅枝、児太郎について、玉三郎は「満足していただけるような出来にならないかもしれませんが、とにかくやっていかなくてはならない。恥ずかしい思いをすることも大事」と厳しいが「大役をすると、違う役に影響してくる」。

どこまでもやわらかい口調の中に、厳しさも優しさも期待も込められていた。玉三郎のふところの深さと、継承がいかに厳しく難しいものかを感じた取材会となった。日程を変えて、玉三郎、梅枝、児太郎3人の阿古屋を見なくてはいけない。