平成のヒットドラマを挙げるとすると、最初に名前が挙がる主演俳優は木村拓哉(46)なのではないか。今では想像もできない、平均視聴率30%超えの出演作は4本。1位の「HERO」(01年、フジテレビ系)で演じた型破りの検事は、2度の映画化を含めて、15年に及ぶはまり役となった。

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「なんか面白いと思っちゃったよ」

「HERO」の演出を担当した鈴木雅之さん(60)は、第1回の放送終了後(01年1月)、初めてスタジオで会ったときの木村の言葉と照れくさそうな笑顔にほっとさせられた。すでに視聴率男の地位を確立していた木村だったが、それまでは恋愛ドラマ中心。検事を主人公にした同作は挑戦だった。

異質のドラマに主人公のキャラはなかなか固まらなかった。「脚本作りはぎりぎりまでかかりました。木村君はすでに特別な存在で、万全の取り組みをする人。そんな人を迎えるにあたって、準備は正直ゆるかったと思う」と振り返る。

「ロングバケーション」(96年)以来、何度もコンビを組んだ鈴木さんは木村を「アイデアマン」だという。「キャラを決定付けた皮のダウンコートや、法廷で着た皮のジャケットも実は木村君のアイデアなんですよ」と明かす。ラフなジーンズ姿で、誰よりもねちっこく正義を貫く。鈴木さんのいう「ゆるさ」が結果的に木村のアイデアも加えて型破りの検事像を作りあげ、ヒットにつながった。

児玉清、中井貴一、そしてイ・ビョンホン…共演者の顔ぶれも豪華だった。

木村本人がエピソードを明かす。「映画化(07年)の時、(レギュラーの)松(たか子=41)さんのお父さん(松本白鸚=76)がゲストで出てくださって、ロケ先の大阪で食事に誘ってくださったんです。松さんと3人。松さんと僕は役柄では互いに意識し合う仲。そこにお父さん。何だコレ? って少し変な気持ちがしたのを覚えています」。役が体に染みこんでいるからこその「変な気持ち」だったのだろう。

木村は俳優の中では必ず一番に現場入りする。「せっかちだからかも。でも、現場は楽しいし、あの女性(スタッフ)があんなに大きな道具を運んでいるんだ、とか、そういう役割分担を知っておきたいんですね」。その日の収録分は頭に入れているから現場では台本を持たない。「(セリフを)入れるときは声には出しませんね。現場でリハーサルから始めるときに慣れた感じの声になるのがいやなんです」。現場の目配り、役作りは繊細だ。

2度目の映画化まで延べ15年。主人公の検事も歳を重ね、スーツ姿になってもおかしくない。

鈴木さんは「それはできなかった。木村君にはゴジラみたいに変わらない存在感があるから」と話す。

パイロット、レーサー、アイスホッケー選手…。「HERO」以降、木村ドラマは「職業」も注目されるようになり、演じる幅も広がった。

木村には「その職業ならでは『あるある』にはしっかり応えていきたいし、実際にその職に就かれている人たちに失礼のないようにしたい」という思いがある。01年の「HERO」放送後に、司法修習生の検察官志望者が増加した。「それが一番うれしかった」。

平成元年の「あぶない少年3」(テレビ東京系)からドラマ出演は始まった。「今はワード1つで録画ができたり、当時から思えば、ドラえもんのポケットのように自在に視聴できる環境になったじゃないですか。その分、今やっているから見たい! というワクワクドキドキの熱量は減った気がします」という実感はある。平成後半は視聴率の判定がよりシビアになり、木村ドラマにはさらに厳しい目が向けられてきた。

「(視聴率の上下を)面白がってもらえば、それも一理だし、スタッフ、キャストが1つになるドラマ作りは同じだと思ってます」

木村の姿勢は驚くほど変わっていない。【相原斎】

◆HERO 第1期は01年1月から3月にかけて「月9」枠で放送。木村演じる型破りの検事像が受けて最高視聴率は36・8%(関東地区)。06年に特別編が単発ドラマで、07年には映画化第1作が公開された。14年7月から9月にかけて13年ぶりの続編として連続ドラマが放送され、15年に映画化第2作が公開された。