製作費300万円のインディーズ映画ながら、興行収入31億円超を記録した18年の映画「カメラを止めるな!」の、上田慎一郎監督(35)の新作「スペシャルアクターズ」が公開された。
公開を記念したキャスト14人座談会に続き、上田監督が単独インタビューに応じた。公開後だからこそ出来る“禁断のネタバレインタビュー”1回目のテーマは「『カメ止め』後の葛藤と新作でやりたかったこと」。【聞き手・構成=村上幸将】
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「カメ止め」は、17年11月に東京・新宿K’sシネマで6日間、6回だけのイベント上映されて終わるはずだったが、そこで話題を呼び、18年6月23日に同劇場と池袋シネマ・ロサの都内2館で公開された。作り手と観客がSNSで続けた拡散がムーブメントを起こし、公開館は全国375館にまで拡大した。日本映画史に1ページを刻み付けた「カメ止め」後、上田監督は同作で助監督だった中泉裕矢氏とスチール担当だった浅沼直也氏と、共同監督と脚本を務めた「イソップの思うツボ」を製作し、8月に公開。「スペアク」は自身単独での劇場長編第2弾となる。
上田監督 キャストの座談会、どうでした?
-「上田慎一郎には絶対に内容は言わない」という仕切りで「上田慎一郎を公開後に驚かせよう企画」としてやったんです
上田監督 うそぉ~!! 別に僕、隠しごと、ないですけどね(苦笑い)
上田監督は「カメ止め」に続く長編を、松竹のグループ会社で「作家主義」「俳優発掘」を掲げる松竹ブロードキャスティングで製作した。出演者オーディションの参加者を、18年12月7日から24日までの日程で募集。年齢は15歳以上で、プロ、アマは問わなかった。応募した約1500人の中から選んだ俳優18人の多くが「カメ止め」同様、無名だった。そうした無名の俳優を起用しながら、メジャーの映画会社・松竹の枠組みで作られた「スペアク」は、18日の公開初日の段階で全国148館で公開という、異例のスタートを切った。
-伏線はあるが「カメ止め」ほど多くない。大きなどんでん返しは仕込んであるが、分かりやすい、エンターテイメント
上田監督 大きく公開するから、というわけではなく「カメ止め」と「イソップ」があったので、ギミックを使うよりはストレートなエンタメを作ろうという思いはありました。どこまで書けるか分からないですけど…大きく分けて(どんでん返しが)2回くるんですね。1回目は、まぁまぁ読めるというか…主人公は死なないだろう、何かトリックだと思いながら見るんだろうし。でも、あれが1回くることで、最後は気を抜いちゃうでしょうね。ギミックに頼るんではなくて、スクリーンに映っているもの、そのこと自体で楽しんでもらうというのは、あったかも知れないですね。
-上田慎一郎=どんでん返し、伏線みたいな、パブリックイメージが出来上がっているが、今回はそうではない
上田監督 やりたいことを幾つか、詰め込んだ感じではありますね。「ムスビル」という謎のカルト集団の怪しい世界観は、いつかやってみたいなというのがあったので。パソコンにUSBを挿して、裏教典を奪還するところは、スパイ映画をやりたかった(気持ちが反映されていて)旅館でのだまし合いは、詐欺師もののコンゲーム。自分の好きなジャンルの、いろいろ、やりたいことを詰め込んだ作品ではありますね。
-クランクアップ直後の6月に取材した際は、とにかく「カメ止め」ムーブメントの重圧を抱えて、斜め45度下ばかりを見ていたが、今は快活さが戻った
上田監督 「スペアク」の反応に手応えも感じていますし…ずぶとくも、なってきたんやと思います。「カメ止め」で、あらゆることを経験して…褒めてくれる人も多かったですけど、もちろん批判する人もいるし心ないことを言う人もいるじゃないですか。どんな映画を作っても褒められるし、けなされるというのを体感したんやと思うです。
-「イソップ」公開後はツイッターで賛否両論を募る企画をやった。ずぶとさだけでなく、苦悩、納得いかないことに対しての思いものぞかせた
上田監督 「カメ止め」のハードルが1番、直撃した作品で、あの時も精神的にきましたね。何か、今できることをやらないと、よけいきつくなってくるので。ただ、ただ、どうしよう…ダメだと思っていても、しょうがないので。
-「カメ止め」の前から企画はありながら、撮影含め実際に企画が動いたのは「カメ止め」ムーブメント後。中泉、浅沼両監督と3人で作ったことで、作品が散漫になったという声も少なからずあった
上田監督 言うてる人の意味は分かる。散漫にしようとは思っていないけれど、3人で作った、いびつさも魅力になればいいなと僕らは思っていたし、目指したので、はまるか、はまらなかったでしょうね。
-ツイッターで賛否両論を募集した裏に「スペアク」への覚悟が見えた気が
上田監督 僕としては、覚悟と言うよりは、特に「カメ止め」ファンの方々が何か感想を言いたいけれど(「イソップ」に)はまっていない人は、モゴモゴしている感じがあったので、そのままにしていると気持ち良くないなと。映画を見るだけじゃなくて、見た後に、ここが好き、ここはダメだと語り合うことを含めて、映画を楽しむ時間だと思うので。見終わった後、語り合うことをしてもらうのが、この映画にとっていいと思ったんですね。
-映画の楽しみ方を勝負作の前に提示したかった
上田監督 もう、今の時代は、評判がいいか悪いか、作り手側が隠せる時代じゃないので、ヒットしているかどうかも調べればすぐに分かること。正直にやっていくことが好ましい時代ですよね、どう考えても。
-「スペアク」で1番、伝えたかったことは
上田監督 「カメ止め」もそうなんですけど、伝えたいことを考えて作ったわけではないですからね。「カメ止め」も、とにかく面白いものを作ろうと思って作った。(作品のテーマである)映画愛、物作り愛みたいなものが、僕の中から、にじみ出てきた。今回で言うと、自分の中からにじみ出てきたものの中で“救う”“救われる”というのは、モチーフになっていますね。信仰宗教団体「ムスビル」もそうですし、和人が好きな「レスキューマン」というヒーローも、和人が通うメンタルクリニックも人を救う職業ですし。僕は映画を見て、救われてきた人間なんですよ。映画とかフィクションとか演技をするということが、誰かを救っているんだということを、言いたかったのかも知れません。それを伝えたくて、作ったわけじゃないですけど、今、考えると、やっぱり「カメ止め」の存在も大きかったと思います。
-その心は?
上田監督 作った時に「面白かった」だけじゃなくて、例えば「ずっと絵が描けなかったんですけど『カメ止め』見て、もう1度、絵を描き始めました」とか「引きこもりの息子が部屋から出てくるようになったんです」とか、映画とかフィクションというものが、これだけ人を救うことが出来るんだというのを、実感したんですね。それが「スペアク」にも影響を及ぼしているかも知れませんね。
次回は、無名俳優を起用した映画を全国148館で公開した“ばくち”に挑んだ、上田監督の真意と“禁断のネタバレ”を公開する。



