第92回アカデミー賞授賞式がハリウッドのドルビー・シアターで行われ、韓国の「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が、外国語映画として史上初の作品賞を受賞した。監督賞、脚本賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)も合わせ、最多4冠に輝いた。

ポン・ジュノ監督の実力なら、いずれはたどり着くアカデミー作品賞、そして4冠だったと思う。

最初に見たのは17年前の「殺人の追憶」だが、実際の連続殺人事件を題材にしたサスペンスはすきがなかった。薄明かりの中に人物の表情が浮き上がる繊細な演出は当時から完成の域に達しており、4年後の「グエムル-漢江の怪物-」ではクリーチャー映画に真正面から取り組んで多彩さも見せつけた。

「パラサイト」は作品賞を競った「ジョーカー」と同じく、現代の格差社会を題材にしたことが第1の追い風になった。半地下に住む貧困家庭と高台に住む裕福な一家が絡み合い、想像もつかない結末に至る。半地下アパートでも高台の邸宅でも、セットの階段が効果的に使われ、観客は言語の壁を越えて「格差」を実感させられる。

第2の追い風は今年のアカデミー賞候補作(者)が「白人」に偏り、「ホワイト・オスカー問題」が再燃していたことだ。投票に当たるアカデミー会員のバランス感覚が唯一の非白人有力候補だったアジア系に優位に働き、英語以外は初という大きな壁もあっさり越えてしまった。

俳優山崎樹範に似た印象もある同監督は、外見そのままに気さくな人柄だ。昨年末、監督の来日に同行。20年来の付き合いがある名優ソン・ガンホは「こうやってニコニコしてますが、撮影中は日々進歩を感じさせる人。どこまで進化するのかそら恐ろしい」と話した。優しいまなざしの中には冷徹な視線が隠されているようだ。【相原斎】