ピン芸人日本一を決める「R-1ぐらんぷり2020」決勝が8日に行われ、お笑いコンビ、マヂカルラブリーの野田クリスタル(33)が初優勝した。

新型コロナウイルス対策で、復活ステージ、決勝ともに無観客で行われた“令和初のR-1”は、新しい時代のお笑いを世に示した大会となった。

優勝した野田は、17年の漫才日本一決定戦「M-1グランプリ」決勝では、審査員の上沼恵美子に酷評され、最下位に終わった。翌年の「M-1」敗者復活戦では、ステージ上から「恵美ちゃん、まっててね~」と呼び掛けた。

かつてと違い、近年は親の許しを得て、学費を出してもらい、芸人養成所に通って芸人になる人も多い。「破天荒」というものはネタの上のことだけとなり、型破りな芸人が少なくなった印象もある。テレビでも、過激な言葉を言いにくくなっている。

「R-1」「M-1」「キングオブコント」の“お笑い3冠”で、史上初の全ての決勝進出者となった野田は、3冠制覇を目標に掲げる。既にM-1、R-1を制している霜降り明星の粗品(27)をライバルとして挙げ、「粗品がキングオブコントを制したら、俺の価値がなくなる。殺します」と優勝後の会見でキッパリと言い切った。

実際に本当に殺すとは誰も思わないが、昨今では“ネタとしての発言”も炎上しがちだ。過激な言葉はテレビではあまり聞かなくなったが、YouTubeでは頻繁に出てくる。テレビよりも、スマホから個人にダイレクトに本音が飛び込んで来るYouTubeを見る若者が増えているという現実がある。

そして、今回のネタがゲームを題材にしたことも、大きな進歩だ。装置を買って、ゲームを買ってという時代と違い、今やゲームはアプリをスマホでダウンロードして楽しむ時代。自らゲームをプログラミングして、笑いにつなげた野田は、新しい時代の旗手だ。

ゲームについて「世の中のユーチューバーみんなにプレーしてほしい」とアピールした。ユーチューバーがダイレクトに世の中の動きをつかんでいることを、身をもって知っている発言だ。

くしくも無観客での開催となった、今回のR-1。観客の笑い声や拍手などに影響されることがなかった。YouTubeで、ダイレクトにお笑いに接する世代にとっては、あまり違和感はなかったのではなかろうか。

4月からテレビの視聴率表示のメインが、世帯視聴率から個人視聴率へと変わる。また、秋には地上波の同時再送信が始まる。つまり、テレビをネットで放送と同時に見られるようになる。関西ローカル、九州ローカルという番組ではなく、東京発の番組をネットで同時に見られるようになる。

逆に言えば、野田の出演が注目を集めるR-1主催局、関西テレビの上沼の冠人気番組「怪傑えみちゃんねる」も、東京で同時に見られるようになるはずだ。いろいろなことを期待させてくれる、野田クリスタルの優勝だった。【小谷野俊哉】