3月31日に滞在先のホテルで急死した映画監督の佐々部清さん(享年62)が、最後にメガホンをとった映画「大綱引の恋」(来年公開予定)について、今秋に鹿児島で先行公開に向け準備を進めていることが15日、わかった。

同映画は、俳優三浦貴大(34)が主演で、女優の知英(ジヨン=26)や比嘉愛未(33)らが出演。ロケ地・薩摩川内市の伝統行事「川内大綱引」を題材に、これに青春をかけるとび職の跡取りと、韓国人研修医の切ない恋、2人を取り巻く家族模様を描く。

ロケ地の1つとなった下甑島(しもこしきしま)で、同行していた男性によると、地元住民が昼食を用意していたものの、帰りの船の都合で食事抜きで撮影。ただ、佐々部さんは「せっかく作ってくれた。なんとかして食べたい」と気遣い、海を見ながら島の味を食したという。男性は「映画だけじゃなく、関わる全ての人に配慮されていた」と振り返った。

撮影は、国道3号線を封鎖しても行われ、エキストラ300人に加え、ボランティアなどの支援も得て行われた。佐々部さんはクランクアップを迎えた際に「周りの人に助けられて撮影できました」。普段は目立たない裏方のスタッフらにまで目を配り、感謝の思いを伝えたという。

また、ロケに同行した関係者によると、佐々部さんはロケ中「比嘉愛未さんは『監督の映画に出たい』と言って、今回参加してくれました」とうれしそうに語っていたことを明かした。

佐々部さんをしのび、岩切秀雄市長は「突然の訃報に接し、ただただ驚きと深い悲しみでいっぱいであります。撮影現場に訪問させていただいた際に拝見した、佐々部監督の真剣なまなざしが今も思い出されます」と語った。【南谷竜則】