俳優、声優として長年活躍した久米明さんが23日に亡くなった。96歳だった。独特の語り口で、数々の番組でナレーションを担当した。NHK「鶴瓶の家族に乾杯」では昨年3月に95歳で降板するまで務めており、国内最高齢の声優とも言われた。また、洋画の吹き替えも数多く、特にハンフリー・ボガードは有名だった。

俳優としても、63年に大河ドラマの第1作「花の生涯」では、幕末の米国公使ハリスを演じたり、映画「金環食」「不毛地帯」では、池田勇人元首相に顔が似ていることから池田元首相をモデルにした役も演じていた。知的な風貌もあって弁護士や医者などの役が多かった。

学徒動員から復学した東京商科大(現一橋大)で演劇研究会を立ち上げ、それをきっかけに俳優の道に進んだ。47年に劇作家木下順二さん、山本安英さんらの劇団「ぶどうの会」の創立に参加し、「夕鶴」などに出演した。久米さんはそこで演技、朗読の奥深さを学んだ。言葉の大切さを追求した名優の山本さんに「ただせりふを言うのではなく、なぜこれを言わなくてはいけないかを考えなさい」と教えられた。

その後、シェークスピア作品の翻訳でも知られる福田恒存氏のもとで「テンペスト」などに主演し、劇団昴ではアーサー・ミラーの名作「セールスマンの死」にも主演した。「セールスマンの死」と言うと、滝沢修さんが有名だが、久米さんも昭和の終わりから平成にかけて何度か演じて、私も平成元年と8年の舞台を見ている。時代に取り残された老年に入った男の悲哀をくっきり浮かび上がらせた端正な演技が印象的だった。ナレーション、吹き替えはもちろん、俳優としてもステキな人だった。