昨年末、東京・柴又駅が「寅さん装飾」にリニューアルされ、シリーズの山田洋次監督(89)と妹さくら役の倍賞千恵子(79)が記念イベントに出席した。

倍賞は「何度ここでお兄ちゃん(渥美清)に『いつでも帰っておいで』と言ったことか」と感慨深げだった。

明けて3日、「男はつらいよ」の第1作(69年)がWOWOWで放送された。さくらがお嫁に行く前なので、主題歌は5作目から定着した「どうせおいらはやくざな兄貴」ではなく、「おれがいたんじゃお嫁にいけぬ」で幕を開ける。

この作品では、寅さんは矢切の渡しから旅立つので、柴又駅が登場するのは、博(前田吟)を追い掛けてさくらが思いを打ち明けるシーンである。半世紀前の柴又駅は全体的に木造感が強いが、構造は驚くほど変わらない。「この駅の初ロケは52年前でした。それから100回、200回と撮影に来たけど、変わらないことが魅力になっている」と記念イベントで明かした山田監督の気持ちがよく分かる。

第1作で、20年ぶりに柴又に帰ってきたという設定の寅さんはグレーのシングル・ジャケットにネクタイまでしており、コンビ靴を履いた職業不明の風体だ。が、後半にはダボシャツに雪駄(せった)履き、茶系のダブルのジャケットを肩に掛けたおなじみのスタイルを披露する。

後に禁止された言葉も口にしていることを除けば、独特のセリフのリズムもすっかり出来上がっている。ロケ地の「昭和の風景」とは対照的に寅さんの言動が変わらないことに改めて驚く。

寅さんや柴又駅が変わりようのない人情を映しているからだろう。何度見てもこのシリーズには「古さ」を感じない。【相原斎】