吉田恵輔監督(46)が「空白」「BLUE/ブルー」で初の監督賞に輝いた。どちらもオリジナル脚本だ。「特に『空白』は最高傑作を作るという意識がありました。勝負の1本だったので認めていただいて良かった」と喜んだ。

娘を亡くした父親が、死の真相を探る物語。サスペンスタッチではあるが、亡くなった人、残された人への優しさが伝わる。5年前、脚本などの共同作業をしていた親友を亡くしたことが、物語を書くきっかけになった。「一番の理解者で競争相手。亡くなって心の折り合いがつかなかったので、ちゃんと向き合おうと思って書きました」と話し「いつも勝負していたので、俺も向こうに行ったら『俺の圧勝だ』と言って盾を見せます」と笑った。

心の奥を探り脚本を書く。「汚いもの、痛いもの、すべてさらけ出して書かないと、うそをついている気持ちになる。恥部をさらけだしてなんぼです」。

監督デビュー15年。幼稚園の時、テレビで見るジャッキー・チェンに夢中になり、ジャッキーを自由に動かしたいと監督を目指した。夢から遠い時期もあったが、諦めたことは1度もなかった。「来年も本をいっぱい書きためたい。いろんな経験をして、インスピレーションを得たい」と意欲的に語った。【小林千穂】

◆選考経過・監督賞 「俳優の魅力を引き出す人がふさわしい」(石飛徳樹氏)と吉田監督を推す声と「カンヌ、ベルリン映画祭受賞で乗っている。世界で活躍できる監督」(駒井尚文氏)と濱口監督を評価する声があり、2回目の投票で吉田監督が過半数を獲得。

◆吉田恵輔(よしだ・けいすけ)1975年(昭50)5月5日、埼玉県生まれ。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を製作。塚本晋也監督の現場で照明など担当。05年「まな夏」でゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリ。ほか「純喫茶磯辺」「ヒメアノ~ル」など。

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◆空白 漁師の添田(古田新太)は娘花音(伊東蒼)と2人暮らし。花音はスーパーで万引未遂を起こして逃走、店長(松坂桃李)に追いかけられ、事故で死亡した。添田は、娘は本当に万引しようとしたのかを調べるうち、関係者を追い詰めていく。

◆BLUE/ブルー ボクシングに情熱を注ぐが試合で勝てない瓜田(松山ケンイチ)は、挑戦者を意味する青コーナーが定位置。親友の小川(東出昌大)は日本チャンピオンを狙う立場。瓜田は、幼なじみで小川の恋人千佳(木村文乃)へかなわぬ思いを抱いている-。