「第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞」が昨年12月28日に日刊スポーツ紙面とニッカンスポーツ・コムで発表されました。発表当日に掲載しなかった部分も加えて、受賞者インタビューでの言葉をあらためて掲載します。

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世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭で邦画史上初の脚本賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)が、作品賞と西島秀俊の主演男優賞の2冠に輝いた。50歳の節目を迎えて初の栄冠に輝いた西島は、開口一番「第1回、渥美さんなんだと。そうそうたる皆さんが受賞した賞。非常にうれしい」と笑みを浮かべた。88年の第1回受賞の渥美清さんから連なる系譜に名を連ねたことを、再確認するように自ら口にした。

西島は「ドライブ・マイ・カー」について「濱口監督にとって集大成のような作品だと、お聞きしたことがあります。(俳優陣も)リハーサル段階で運命的なものを感じていたと思う。全員の人生をかけるタイミングが合った作品」と評した。その象徴的かつ濱口竜介監督(43)ならではの取り組みが「本読み」だ。俳優陣が集まり、感情を入れずに台本を読み、せりふを体内に落とし込む。感情を表に出さない舞台演出家の役を徹底的に掘り下げ、感情を体内に満たして演じた「俳優がどうやったらその人物になりきれるか、時間とエネルギーを最大限に割く幸せな現場」を経て本読みは習慣となった。

「何のために人が生きているのか、実際に生きてみることで答えを見つけていく」ことに魅力を感じて、俳優を始めて30年。西島は愛する映画の世界の先端を知ろうと、エンターテインメント作品や大作とは対極にある、監督の作家性を前面に押し出した小規模なアート系の映画を主戦場にしてきた。

そうした作品は、海外の映画祭に出品される機会も多く、西島はそこで世界の数多くの映画人と出会ってきた。「回り道は、すごくしていると思うんですね。でも、その中で20代、30代の時に、たくさんの才能のある監督に呼んで頂き、映画の今の最先端は何なのかということを、本当に突き詰める監督たちにお会いして、鍛えられたことは僕にとって1番の財産、1番の武器で、どこに行っても勝負できる」と胸を張る。

40代に差しかかって以降、近年は民放の連続ドラマや規模の大きいエンターテインメント作品への出演もグンと増えた。「ドライブ・マイ・カー」とともに受賞対象作になった「きのう何食べた?」は、19年にテレビ東京系の深夜ドラマからスタートし、20年の特別ドラマを経て映画化された作品。現在、日本テレビ系では、主演の連続ドラマ「真犯人フラグ」(日曜午後10時半)が放送中だ。西島は「もちろん、アート映画が主戦場だと思っていますけれども『きのう何食べた?』は、観客の皆さんが劇場で、みんなで一緒になって笑たり泣いたりされている。友だちからも『本当に久しぶりに劇場で、こんなにみんなで笑って泣いた。ありがとう』と、メールが送られてきた。何よりも観客の皆さんに楽しんで頂ける作品になったこと、観客の皆さんに喜んでもらいたいと思って作ったものが、楽しんで頂いて評価の対象になり賞を頂けたことが、すごく個人的にうれしくて」と喜んだ。その上で「本当にエンターテインメントで、皆さんに楽しんでいただける作品も、好きなんですよ」と笑みを浮かべた。

改めて、今回の受賞について、西島は「スタートラインに立たせていただいたと、改めて実感しています。ゲキを頂いたと思い、もっと素晴らしい映画に参加できるよう精進したい」と語った。その上で「インディペンデント、アート映画…映画の現在、最先端を突き詰めていく作品にも関わっていきたいし。つければ、ただで見ることが出来る、年配から子供まで楽しんでいただけるテレビドラマというものも、やりたいし大事にしたいという思いも、すごくある。僕は欲深いところがある。何か自分で限定するのではなく、いろいろなものをやっていきたい」と抱負を語った。【村上幸将】

◆西島秀俊(にしじま・ひでとし)1971年(昭46)3月29日、東京生まれ。横浜国大工学部在学中に俳優デビューし、94年「居酒屋ゆうれい」で映画初出演。30日公開の「99・9-刑事専門弁護士-THE MOVIE」、来年5月13日公開の「シン・ウルトラマン」に出演。

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◆「ドライブ・マイ・カー」 舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島)は妻音(霧島れいか)が秘密を残し亡くなった2年後、演出を任された広島の演劇祭に愛車で向かう。寡黙な運転手渡利みさき(三浦透子)と過ごし、目を背けたことに気付かされる。

◆「きのう何食べた?」 弁護士の“シロさん”こと筧史朗(西島)と恋人の美容師の“ケンジ”こと矢吹賢二(内野聖陽)は男2人暮らしをしている。史朗の提案で、賢二の誕生日プレゼントで行った京都旅行をきっかけに互いの心の内を明かすことができなくなる。