人間国宝だった桂米朝さん(故人)の長男で落語家、桂米団治(63)が15日、大阪市内で、毎夏恒例独演会(7月18日、大阪・サンケイホールブリーゼ)の取材会を開き、直木賞の由来となった作家直木三十五の小説を新作落語として発表すると明かした。

直木三十五の全集にあった「増上寺起源一説」をもとに、新作落語「増上寺」を手がけ、今独演会でネタおろしをする。オペラと落語の融合創作や、原本をアレンジしての創作はあるが「本格的な創作落語は初めてだと思う」と話した。

米団治は5月、藤山寛美さん追善興行で、寛美さんの長女藤山直美と芝居で共演していた。コロナ禍以降、演劇の客足も完全には戻らない中で、上方喜劇王の追善とあって、盛況だったという。

「それでも、直美ちゃんとも言っていたんですが、もう今まで通りではあかん、と。落語も毎回、毎回が特別興行やないとあかん」

危機感が背を押す。

かねて、米団治は緊急事態宣言などで経済が停滞する中「もうコロナ前に戻ることはない」と考え、新生活様式での生き方を模索。今年2月、今独演会のチラシ作成にあたり、「スペシャル」な企画を考えようと、大阪市内にある直木三十五記念館を訪れた。

父のエッセーを手にとると、この「増上寺-」が落語向きだと勧められており、落語化へ着手した。

徳川家の菩提(ぼだい)寺である増上寺をタイトルにし、主人公は2代将軍徳川秀忠。長崎から象を品川へ移す過程でのドタバタ、江戸城に入れば象がなかなか芸をしない-など、にぎやかな話に仕立てる。

象がある音曲で芸をすることや、にぎやか話の中には、上方特有のはめもの(鳴り物)がふんだんに使えることから、米朝さんは「落語向き」と考えたようだ。米団治も「江戸の話なので、大阪弁ではできないけど、もうアタマはできてます」と、取材の場で即興で冒頭を演じてみせた。

秀忠が「2代目はつらい」「家康ばかり有名じゃ」と嘆く様子で、偉大な父を持つ“2代目”の自らを投影させて、ハナシに引き込む作戦。25~30分ほどのネタになりそうという。

独演会では計3席を予定。ひとつは米朝さん作で、存命中の12年に初高座にかけた「淀の鯉」。トリは古典「三枚起請」で飾る。

難波のお茶屋を舞台に起請文をめぐる話を描いた「三枚-」は、約20年前にネタおろしをしたものの苦手だった。だが「2年ほど前から楽になってきた」と感じ、今回、あらためて取り組む。「年齢を重ねたんですかね」と言い、充実した笑みを浮かべていた。