北野武監督(76)が15日、都内で6年ぶりの新作映画「首」(今秋公開)製作報告会見を開いた。劇中ではビートたけしとして羽柴秀吉も演じるが、ジョークや笑いは控えめに30年、温めてきた作品への熱い思い…具体的には衰退が叫ばれて久しい時代劇に、一石を投じる思いを語った。

「首」は初期の代表作の1つ「ソナチネ」(93年)と同時期に構想し30年、温めてきた企画で、ベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した03年「座頭市」以来20年ぶりに手がけた時代劇。19年12月には自身初の歴史長編小説として原作を書き下ろし出版した。「構想30年というのは3週間の間違いだったらいいんだけど」とジョークを口にしたが、直後に時代劇への疑問を呈した。「よく言うのはNHKの大河ですけど人間の業とか欲とか裏切りとか、あまり描かれていない。自分としては面白くない。自分が撮れば、こうなるというのを作った」。

「首」は、織田信長が跡目をエサに謀反を起こした家臣の捜索を命じたことをきっかけに明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康ら家臣の欲望と策略が入り乱れた末、本能寺の変まで向かう流れを独自の解釈で描いた。北野監督は「NHKは、男同士が絡み合うのを非常に避けるところがあるが、殿様に命をかけるのは、そういう関係だというのが自分の考え方。そこを描かないで時代劇を描くのはおかしい。男同士の愛ではないけど、死を前にした男の関係が描ければ」と力説した。

質疑応答で、時代劇の衰退が叫ばれて久しい昨今、なぜ手がけたかと聞かれると「登場人物が有名な人が当たり前で歴史上、偉かった人の裏に隠された、庶民を平気で殺すようなものは描かれない。歴史本みたいなドラマが多い」と指摘。「こういう見方も1つの方向(と示した)。苦労したけど結果的に出来上がった。今回は大多数が本当に褒めていて成功したと思う。大ヒットなんてずうずうしいことは言わないがヒットして、あと何本か撮れれば」と自信をのぞかせた。【村上幸将】

○…北野監督が真面目に語る一方、俳優陣がトークで笑わせた。02年「Dolls」以来の北野監督作品への出演となった西島秀俊(52)は明智光秀を演じた。オファーを受けた経緯を聞かれ「マネジャーから話を聞いた数日後、バラエティーの現場で監督とお会いしたら『聞いてる? 頼むね』と言われ」と明かした。農民の茂助役で北野組初参加の中村獅童(50)は、同監督が演じた秀吉が嘔吐(おうと)したものが流れた川に沈められるシーンを演じたが「汚いなんて思わず喜んでやらせていただいたがカットされた」と笑った。

○…会見2日前の13日にはカンヌ映画祭(フランス、5月16日開幕)で21年に設立された部門「カンヌ・プレミア」への出品が決まった。北野監督は「カンヌの知り合いに聞いたら(最高賞パルムドールを争う)コンペティション部門の枠に当てはまらない強烈な映画ということで。結果的に当たれば、ひともうけだなと。うれしい限り」と笑った。同部門は世界の歴史、民族、信仰など現代社会を取り巻くテーマを描く映画を上映する部門。北野監督のほかスペインのビクトル・エリセ監督(82)の31年ぶりの長編新作「Cerrar Los Ojos」が選出されたことも話題となっている。