歌舞伎俳優中村橋之助(27)が、大正~昭和にかけて活躍した作曲家中山晋平の生涯を描く来秋公開予定の「歌こそすべて~中山晋平・歌と愛の生涯~」(仮題、神山征二郎監督)で映画初出演初主演を務める。激動の時代を生きながら「船頭小唄」「シャボン玉」「カチューシャの唄」など数々の名作を残した男の軌跡を、その音楽と共にたどる。このほど取材に応じ、初の大役への思いを語った。

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歌舞伎界を飛び出しての新たな挑戦となる。中村は「いろんな歌舞伎界の先輩方が映画やドラマにも羽ばたかれていく姿を見ていたので、いつか僕もと思っていました」と語り「中山さんや楽曲のファンの方に良い演技が届けられるよう、責任を持って真っすぐ向き合うつもりなので期待していただきたいです」と意気込んだ。

映画では自身も希望し、中山の18歳~65歳までの姿を単独で演じきる予定だ。「歌舞伎では若い役と年配の役で足の向きが変わったりすることはありますが、また映像では全然違うと思います。生かせるものは生かしつつ、まずは何よりも心。心を育てることは子どもの頃からやってきたので、それを映像でも出していきたい」と力を込めた。

中山は童謡や歌曲など多様な2000曲以上の楽曲を送り出した“日本のフォスター”とも呼ばれる存在。劇中ではピアノを弾くシーンもあり、中村は自宅に電子ピアノを借りて猛練習の日々を送っている。「ピアノは初めてで鍵盤にシールを貼ってやっています。以前、祖父(七代目中村芝翫)に(楽器は)良い格好で弾くことが大事だと教わりました。それが役者だと。なので稽古する時も気持ちはプロだと思ってやっています」。

歌舞伎では今夏に福之助、歌之助の弟2人とともに“成駒屋3兄弟”での初自主公演「神谷町小歌舞伎」も成功させた。映像でもやってきた長男の晴れ舞台は家族も歓迎している。父の中村芝翫は「手放しで『良かったじゃん』と言ってくれました」と明かし「『成功も失敗も自分の責任。謙虚に、ひとつひとつ階段を上るようにいきなさい』と。母(タレント三田寛子)からは『あんた映像は太って見えるんだから早く痩せなさい』と(笑い)。中山さんの体形の規格内で少し減量しようとしています」。

9月から撮影に入り、中山の故郷、長野をはじめ、岐阜、静岡などをめぐる。近年は洋画でも「ボヘミアン・ラプソディ」「エルヴィス」など音楽界の偉人を描く作品が多くあり、今作も楽曲をふんだんに使った音楽映画を目指す。今後発表の豪華キャスト陣との共演も心待ちにしており「カラカラのスポンジの状態で行って、いっぱい吸って帰ってきたいです。今後も声がかかるような魅力的な役者になれるように頑張っていきます」。渾身(こんしん)の一作を届け、思い出のステップアップにする。【松尾幸之介】

 

◆中村橋之助(なかむら・はしのすけ) 1995年(平7)12月26日生まれ、東京都出身。八代目中村芝翫とタレント三田寛子の長男として生まれ、2歳下の中村福之助、6歳下の中村歌之助とともに歌舞伎の道へ。00年に本名の初代中村国生として初舞台。16年に父が36年間名乗った「中村橋之助」を四代目として襲名。ドラマは16年TBS系「毒島ゆり子のせきらら日記」、19年同局系「ノーサイド・ゲーム」など。舞台は21年「ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』」、同年「サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男」など。