世界3大映画祭の1つ、第80回ベネチア映画祭(イタリア)授賞式が9日(日本時間10日)行われ、濱口竜介監督(44)の新作長編映画「悪は存在しない」(24年公開)が、最高賞の金獅子賞に次ぐ審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した。

濱口監督は授賞式後、主演の大美賀均(34)とともに日本メディアの取材に応じた。銀獅子賞のトロフィーを手に「本当に素晴らしい賞をいただいて、信じられないような気持ちでおります」と喜びを口にした。

21年のベルリン映画祭で「偶然と想像」が審査員大賞(銀熊賞)を受賞したのに続く、最高賞に次ぐ2番手の賞の受賞となった。「ベルリンに続く“準優勝”。金は取りたかった?」と聞かれると「これはですね…本当に、少しもない、というのが正直ところですね」と即答。「そもそもは、コンペに選ばれるとも思ってはいなかったし、こうやって賞を取るとも思ってもいなかったので、金を取りたいという気持ちも、そもそも、そんなに持ってはいないというのが、すごく正直なところで」と、コンペティション部門への選出自体に驚いていたと説明。「本当に1番、いいものをいただいたというような気持ち。自分たちにとっては本当に、これ以上の結果というのは、ないんじゃないかいかなと思っています」と、銀獅子賞受賞を喜んだ。

「悪は存在しない」は、21年のカンヌ映画祭(フランス)で邦画初の脚本賞、22年に米アカデミー賞が国際長編映画賞を受賞した、濱口監督の前作「ドライブ・マイ・カー」で音楽を担当した石橋英子氏が、ライブパフォーマンスのための映像を依頼。同監督が快諾したことで、2人による共同企画「音楽×映像」プロジェクトがスタート。その音楽ライブ用の映像を制作する過程で、106分の長編劇映画として完成した。

濱口監督は、その経緯を踏まえ「本当に、企画を始めた当初は、海のものとも山のものともつかないような企画ではあったので、ここまでたどり着けたことも奇跡的だと思いますし。それは本当に関わってくださった皆さん…特に発案者でもある、音楽の石橋英子さんの力が、とても大きいというふうに思います」と石橋氏に感謝。「そしてキャスト、スタッフの皆さんの力があったおかげで、ようやく、こういう結果に結実する映画が出来たと思っています」と製作に関わった全ての人の力による受賞だと強調した。

受賞した際、檀上から見えた景色は? と聞かれると「やっぱり、隣に大美賀さんがいて、目の前に(撮影の北川)喜雄さんがいて、他にもチームのメンバーがいてくれて…。もちろん他に、たくさんの人がいるんですけど、そのあたりが光って見えて」と口にした。そして「このチーム、人達とやって来られて良かったなと思いました。そういう時に胸がいっぱいになるような、そういう思いがしました」と続けた。

最高賞の金獅子賞を競うコンペティション部門には23作品がノミネートされたが「悪は存在しない」は、同部門に選出されたアジアから唯一の作品だった。その点に話が及ぶと「それは本当に、選考する側の問題なので、ちょっと分からないです。コンペの他の作品は見たかったですけど、見られなかったですし、全体として、自分たちの作品が、どのようなポジションに位置付けられているかは分からないですけど」と答えた。その上で「他にも、いいアジア映画がたくさん、あったんではないかなと思うことはあります。もちろん、この映画祭に選んでいただいたのは、ありがたいことですが、たった1本というバランスは本当なのか? とは多少、思うところがあります」と自作の選出には感謝しつつも、選考自体には疑問も呈した。

◆「悪は存在しない」 巧(大美賀)と娘の花(西川玲)は、地方の村で自然のサイクルに従い、質素ながらも豊かに暮らしていた。ある日、芸能事務所が村にグランピング施設の建設を予定していると知り、巧も含めた村民らは、東京から来た男女のプロジェクト担当者(小坂竜士、渋谷采郁)が開いた説明会に参加した。その中で村の自然、村民の生活を破壊しかねない強引な計画だったことが判明し、説明会は物別れに終わる。プロジェクト側は、村民との仲介役として巧に目をつけ、村を再訪して巧と交流していくが、そのことが巧と花の親子の暮らしにも影響を与え始める。