昨年6月に公開された映画「怪物」に出演した黒川想矢(14)がブルーリボン賞の新人賞に決まり、取材する機会があった。

「心から尊敬できるスタッフやキャストの方からたくさんのものをいただき、魂を込めて臨みました。受賞させていただいたことはものすごくうれしいです。観客の皆さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。祖母に伝えたら、ちょっと泣いてました」

まだ中学2年生。一生懸命覚えてきた喜びのコメントをたどたどしく、語る姿が初々しかった。

5歳から、ドラマやCMの出演を重ねてきたが、映画は初めてだった。

「すごく、ゆっくりと僕と一緒に作ってくれている感じがしました。脚本を読んでも最初はよく分からなかったんですけど、(是枝裕和)監督からは、感情は痛みのように表現しようといわれました。寂しい時は指の先が痛いというような、うれしいときはおなかが温かくなる感じ。感情の大小は例えばコップの水の量をイメージしてごらん、と。それが割れてるとか、どんな形だとか、考えたら面白いんじゃない、とか。だんだん分かってきて楽しくなりました。終わった時は、嵐が通り過ぎたような感じがして、あんまり覚えていないんです。監督にこの喜びを伝えたたいんですけど、連絡先を交換していないので、お手紙を書こうと思っています」

今年の仕事始めの日、所属の館プロに受賞の知らせが届いたという。創設者の舘ひろし(73)も4年前、「終わった人」でこの賞の主演男優賞を受賞している。その館から「歴史のある(66回)賞だし、新人賞は一生に1度した取れない賞、本当に良かった」と祝福された。

「怪物」のオーディションと館との出会いが運命を決めた。

子役としての活動も一段落し、「もう辞めよう」と思っていたときに母親から「是枝監督だし、学びになると思うから、最後に受けてみたら」と勧められたのが「怪物」のオーディションだった。そして、同時期に出演していた「剣樹抄 光圀公と俺」(NHK)の撮影現場で初めて顔を合わせたのが館だった。

「館さんの大きさにひかれて、思わず『どこの事務所ですか』と(館プロ入りを志願)。その頃進んでいた『怪物』のオーディションもいつの間にか楽しくなり、最後には『やります!』と言ってました。これから館さんの背中を追いかけるためには、賞を意識するのではなく、人間として大きくならなければいけないと思っています」

今年5月には「怪物」がカンヌ映画祭で脚本賞(坂元裕二)。監督や共演者とともに現地を訪れてレッドカーペットを歩いた。

「初海外、初飛行機、ホテルから会場に行く車の中から見た海岸がとてもきれいでした。館さんにタキシードを作っていただいて、館シードって呼んでるんですけど、今、(1年に)10センチ近く背が伸びているので、もうパツパツになっちゃいまして…」

「怪物」を経て「映画がどんどん好きになっています。たくさん見るようになりましたね」

言葉の端々から、スポンジのような吸収力を感じさせる。俳優としても、文字通りの「急成長期」だ。【相原斎】