元通訳の違法賭博問題に関するドジャース大谷翔平選手(29)の会見で、臨時通訳を務めたのはウィル・アイアトン氏(35)だが、どこかで見たような顔と独特な名前が引っかかった。

検索してみれば「やはり」。父親はワーナー・ブラザーズの元日本代表ウィリアム・アイアトン氏(68)ではないか。米国人の父と日本人の母の間に日本で生まれたアイアトン氏は、東宝東和や父が経営する映画業界誌の勤務を経てワーナーの代表となり、「マトリックス」3部作や「ハリー・ポッター」シリーズの日本公開で中心的な役割を果たした人だ。

会見でのウィル氏は、誠実そうな通訳ぶりが印象的だった。前任者水原一平氏のようなさばけた感じはなかったが、大谷選手の一言一句にしっかりと耳を傾け、目を机上に向けながらていねいにメモを取る姿に安心感があった。会見の趣旨からいって、これはとても大切なことだと思った。

父のアイアトン氏は30代半ばでワーナー代表の重職に就いたが、腰の低い人だった。

ハリウッド俳優の来日時やロサンゼルスやロンドンでの海外取材で、事あるごとにフットワーク良く通訳を引き受けてくれた。「童顔」からまるで学生バイトのような雰囲気があり、物腰柔らかく、さまつな頼み事にも嫌な顔をしなかった。親しみを込めてか、単に発音しにくいからか、年配の記者たちは「あやとん」と呼んでいた。

ワーナーが邦画製作事業を立ち上げたのも彼が代表を務めていたときで、7年間で49本の作品に関わっている。「るろうに剣心」シリーズを始め、「最後の忠臣蔵」「藁の盾」…「許されざる者」のリメーク作品も手がけている。ヒットメーカーと言っていい仕事ぶりなのである。

現在、ドジャースの編成部に所属する息子ウィル氏はデータ分析が本来の職務だという。東京生まれで15歳まで日本のインターナショナルスクールに通い、高校はハワイ、本土に渡ってカリフォルニア州の名門オクシデンタル大とメンロー大に学んだ。一方で、野球にも取り組み、12年のWBCに母方の母国フィリピン代表として参加した。翌年には内野手としてテキサス・レンジャーズとマイナー契約を交わしたという。

選手としての限界を感じると裏方にまわり、レンジャーズやヤンキースのインターンシップを行った後、15年にはWBCフィリピン代表のGMを務めているから、表裏を知る「球団運営のプロ」と言える。

大谷選手の会見では、よく似た「童顔」に加え、どこか謙虚な姿勢、そして誠実な「通訳」ぶり…。実は父親を思い出させる要素ばかりだったのである。

ちなみにウィル氏の兄、マシュー・アイアトン氏は吉本USAのCEOを務めている。吉本興業が15年に映画「マクベス」を配給した際に父アイアトン氏のアイアトン・エンタテイメントと業務提供した縁もあるそうだ。

スポーツで、文化でアイアトン一家は日米の貴重な架け橋となっている。【相原斎】