綾野剛(43)が、日本を代表する脚本家・荒井晴彦氏(78)の監督作「星と月は天の穴」(12月19日公開)に主演することが4日、分かった。23年の映画「花腐し」に続いて同監督とタッグを組み、女を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代の独身小説家を演じる。綾野は「荒井監督の脚本を浴びる事ができ、主人公を通して言葉の美しさと滑稽さ、なにより文学への造詣に触れられ、とても、けうなひとときでした」と喜びをかみしめた。
「星と月は天の穴」は、吉行淳之介が1966年(昭41)に発表した、芸術選奨文部大臣受賞作の実写化作品。綾野が演じる矢添克二は、妻に逃げられ結婚に失敗して以来、独身のまま40代を迎えた小説家。心に空いた穴を埋めるように娼婦と体を交え、誰にも知られたくない“秘密”をコンプレックスとして抱え、執筆する恋愛小説の主人公に自らを投影することで「精神的な愛の可能性」を自問するように探求するのが日課の、愛を“こじらせ男”だ。矢添はある日、画廊で偶然出会った大学生の粗相をきっかけに奇妙な情事へと至り、日常と心が揺れ始める。
撮影は24年4月に、東京近郊で行われた。綾野は「とある小説を主人公が説明するシーン。かめばかむほど、のめばのむほど説明ぜりふを逸脱し、たばこをくすぶらせ酒を堪能する様にせりふを生み吐き出し、生きた言葉へと昇華する」と演じたある場面について言及。「脚本に導かれたその過程は、役者人生においても、唯一無二の体験でした。今思い出しても武者震いします。どうぞ言葉の心地を召し上がってください」と呼びかけた。
女性を拒む矢添の心に無邪気に足を踏み入れる女子大生の瀬川紀子を、咲耶(25)が演じる。矢添のなじみの娼婦・千枝子を田中麗奈(45)が演じる。荒井晴彦監督作品への出演は、同監督が脚本を手がけた17年「幼な子われらに生まれ」、23年「福田村事件」に続き3作目。作品には「R18+」指定が付いている。3人のほか岬あかり(26)吉岡睦雄(49)MINAMO(25)原一男(80)「花腐し」にも出演した柄本佑(38)宮下順子(76)も出演する。咲耶と田中、荒井監督もコメントを発表した。
咲耶 「純文学の登場人物になりたい」そんな願望が私にはありました。それがまさかこんなに早く実現してしまうなんて、全力でつかみに行った紀子という人物を演じる事ができたのは私にとってこの上ない幸せです。現代の日本映画界に真っ向から反抗するような作品ですが、美しくもユーモラスな見る文学であると私は感じます。だからこそ多くの方に御覧頂きたいと心から感じます。綾野さんがどれだけ頼りがいのあるすてきな先輩だったのか、荒井監督とご一緒した事がどれだけ貴重で特別な経験だったのか、あの夢のような時間、語り尽くせない程です。
田中麗奈 荒井晴彦監督とは、脚本を書かれた「幼な子われらに生まれ」、「福田村事件」でご一緒していました。監督された「火口のふたり」、「花腐し」には引かれていましたし、ご縁を感じてもいたので、お話しをいただいた時はびっくりしましたが、お声がけいただき大変うれしかったです。主演の綾野剛くんとの共演もとても久しぶりで楽しみにしていました。剛くんは現場でいろいろアイデアを出し、荒井監督もそれを楽しんでいるのがこちらにも伝わってきて、とても良い現場だと思いました。役者としてだけではなく作り手として客観的にも現場を見ている視界の広い方だと改めて感じました。千枝子に関して、彼女が何を想っているのかというのは、脚本を読んだ時点で直感的に感じましたが、もっと細かくふに落ちていくように、と丁寧に彼女の背景を作っていきました。今でも千枝子を思い出すと胸がキュッとします。年齢制限もあり、チャレンジングな作品だと思います。作品を見ていただいたお客さまからどんな反応がうかがえるのか、楽しみにしたいと思います。
荒井晴彦監督 18歳だった。彼女もいないし、女の子の手を握ったのは高校の文化祭のオクラホマミキサーの時だけだった。それもそっと。’66年の「群像」新年号、吉行淳之介の「星と月は天の穴」、「女の軀に軀を重ねても欲情はたってこない」男は、連れ込み旅館の枕もとの棚の下の埃を見る。「数週間にわたって抜け落ちた数え切れない数の男と女の毛が、絡み合っていた」「突然、はげしい欲情が彼の中に突き上ってきた」これ、なんか分かると思った。妻に裏切られ、愛とか恋とかいう情感を持ち込むのを拒否し、女を「道具」として扱おうと思っている男が「道具」に負けてゆく小説だった。映画の仕事をするようになって、いつか映画にしたいと思ってきた。やっとです。「精神という花が咲いている。引っこ抜くとその根っこに『性』がぶらさがっている」と吉行さん。引っこ抜いていきたい。



