シャンソン歌手で俳優の美輪明宏(みわ・あきひろ)さん(本名丸山明宏=まるやま・あきひろ)が6月20日に老衰のため死去した。91歳だった。

美輪さんの公式サイトが発表した。発表文には、美輪さんの直筆メッセージが添えられた。

「こんな世の中を生き抜く武器は愛の言葉しかありません この世のすべての問題を解く鍵は愛です 愛があれば戦争なんか起こりません 美輪明宏」

このメッセージについて発表文には「美輪の願いは、この世からあらゆる差別、偏見をなくし、すべての人が平和で明るく楽しく生きていける共生社会の実現でした。その願いを込めたメッセージです。本人が常々口にしていた言葉です」と書かれた。

第63回NHK紅白歌合戦(12年)に初出場した美輪さんは、「ヨイトマケの唄」を歌った。漆黒のステージに黒い衣装で1人立ち、身ぶりを交えての魂の歌唱だった。

同曲は、友人の母親が土木工事の日雇いで汗を流す姿を歌った。

タイトルは、地面を固める道具を滑車で打ち付ける際の「ヨイっと巻け!」のかけ声が由来。

友人は「ヨイトマケの子供」といじめられ、差別を受けた。それでも家族のために一生懸命働く母の姿に深い愛を感じ、ぐれずに頑張り、立派なエンジニアになっていくストーリーである。

美輪さんはかつて取材に「フランスには反戦歌、アメリカには黒人のプロテストソング(差別や戦争などに抗議するメッセージソング)があるのに、何で日本にはないのと思った。それじゃ私がつくろうと決意したんです」と、同曲誕生の経緯を話した。

直筆メッセージの「この世のすべての問題を解く鍵は愛です」の真意は、美輪さんがかつて語ってくれた「恋愛観」から推察できるのではないかと思う。

人は「恋」に落ちると、「自分本位」になる。

「僕のことをどう思っているのだろう」「僕はこんなに思っているのに」。

「愛」に発展すると「相手本位」になる。

「あなたにどうしたら思ってもらえるだろうか」「あなたのためならなんでもする」。

国家間でも社会でも、自分本位ではない「愛」が大切なのである。

フランスの国民的シャンソン歌手エディット・ピアフさんの代表曲「愛の賛歌」は、日本では岩谷時子さんが訳詞した越路吹雪さんの歌唱で知られる。

美輪さんの「愛の賛歌」は、ピアフさんが書いた原詞に近い、自らの訳詞で歌っている。

越路さんは「あなたの燃える手で、あたしを抱きしめて」「ただ命の限り、あたしは愛したい」「あたしの願いは、ただそれだけよ」と歌う。

一方、美輪さんは、もしあなたが望むなら「地の涯(はて)だってついていく」「お月様だって盗むわ」「愛する祖国も友人も裏切ってみせる」と歌う。

まさに相手本位の「愛の賛歌」である。

美輪さんは「愛の賛歌」を第65回NHK紅白歌合戦(14年)で歌唱した。第63回の「ヨイトマケの唄」とともに、大きな話題となった。

美輪さんは「今の時代、こういう歌を歌う歌手がいなかった。だから多くの反響をいただいたのだと思います」と話した。

きっと、もう現れないだろう。【笹森文彦】