ニュースやネタは現場に落ちている。それを再認識する出来事が最近ありました。
6月25日に都内で行われた「日本歌手協会 夏まつり 唄まつり」を取材した時のこと。デビュー52年のベテラン歌手・水奈月順子(75)が出演しました。
車いすでステージに登場。初めて取材するので、普段から車いすなのかな? と思ったのですが実は違いました。司会の合田道人が「会場入りをする際に転倒をして腕を骨折しました。救急車を呼ぼうかという話になったのですが、ご本人が『絶対に歌う』と。今日のために着物を新調したのですが着ることはできません」と状況を説明。その後で新曲「ゆめ華火」を歌唱しました。
痛みに耐えながらの歌唱に会場から大きな拍手が送られました。合田は「久々の新曲ですが、今日は曲がヒットをする前に厄落としをしたのかも。皆さん応援をしてください。そして1日も早いご回復を」と呼びかけました。
「えっ、骨折!? これはニュースじゃないか!」。自分自身の“声なき声”が聞こえ、「ベテラン歌手が骨折の痛みをこらえて熱唱」の見出しが脳裏に浮かびます。書きかけ記事を速攻で仕上げ、取材をするために楽屋に向かいました。
楽屋フロアにはいくつもの部屋がありますが、名札が出ているわけではありません。どこにいるのか全く分からない。出演者が多いので楽屋がないかもしれない。「これは困ったな…」。主催者側に確認をすると、ロビーのCD即売コーナーにいることが判明。階段ダッシュで駆けつけると、自身のCDの山を前に車いすに座っていました。
「初めまして。日刊スポーツの松本です」。名刺を渡し、ぶしつけなことをおわびしながら事情を聴きます。「すごく痛いけど、さっき痛み止めの薬をのんだので少し楽になりました。今日はどうしても歌いたかった。明日、病院に行く予定です」。人生で初の骨折でした。
74年に「おんなの星」でデビューし、「年上女房」「夫婦花道」などで知られるベテランの水奈月ですが、これまでは音楽チャートとは無縁。ところが「骨折の痛みをこらえて熱唱」が話題となって「ゆめ華火」のCDが会場で爆売れします。オリコンの演歌・歌謡曲ランキング(7月6日付)で20位、サウンド・スキャンで9位に初のランクインをしました。
水奈月は「まさかこんな結果を頂けるとは夢のよう」と感激し「『ゆめ華火』のタイトル通り、これを機に大きな花火を打ち上げたいと思います。けがの功名とはこのことかしら?」とコメントしました。
現場で起こったことに機敏に反応し、靴をすり減らして取材し報じる。伝統的な記者の“基本のき”ですが、昨今は体ではなく脳で汗をかき、スマホやパソコンを効率よく活用して原稿を作る作業に追われがち。ですが、この日は久しぶりに額に大汗をかき、アドレナリンを噴出させました。
全治6週間の診断を受けた水奈月は現在入院中。“厄落とし”を終えて退院をしたら、笑顔で歌唱する「ゆめ華火」を聞きたいです。【松本久】



