直木賞作家、渡辺淳一氏(享年80)の訃報から一夜明けた6日、ゆかりの場所から惜しむ声が聞かれた。渡辺氏がかつて常連だった、東京・日本橋小網町の老舗「うなぎ喜代川」のおかみ、渡辺良江さん(71)は「昨年10月にいらっしゃったのが最後だった。好物の白焼きとうざく(キュウリの酢の物)をおいしそうに食べていかれた。あまり元気がなかった」と振り返った。

 おかみが「銀座ばかりじゃなく、日本橋も作品に登場させて」と渡辺氏に提案したところ、小説「化身」(1986年)に同店をモデルにした「喜代村」が登場した。愛人ホステスを理想の女性に変えていく自伝的ともいえる作品。主人公の文芸評論家が、クラブホステス霧子との密会に使った3畳ほどの個室は、いつしか「霧子の間」と呼ばれるようになった。今もこの部屋を指定して訪れる客も多いという。

 また、都内の渡辺さんの自宅には、親交のあった編集者などが弔問に訪れたが、ひっそりと静まり返っていた。【斎藤暢也】