昨年末からの自民党派閥パーティーをめぐる裏金事件の混乱がおさまらない中で、26日に通常国会が始まった。これまで自民党に当たり前のようにあった派閥が、裏金事件の「温床」となったこともあり、次々に解散に追い込まれる事態となるなど、「未知のゾーン」(自民党関係者)に突入した感があり、これから何が起きるのか、何が起きても不思議ではないという不安定さを感じる。
ところで、今年は世界的に「選挙イヤー」といわれている。すでに今月13日に台湾で総統選が行われ、与党民進党の頼清徳氏が当選した。3月には、ウクライナ侵攻を止めないプーチン大統領のロシアで大統領選、そして11月には、選挙イヤーのクライマックスとなる米大統領選が予定される。ロシアはプーチン大統領の通算5選が揺るがないが、米国は、バイデン大統領の支持率が低迷する中、トランプ前大統領が共和党で始まった候補者選びの予備選を連勝し、「もしトラ(もしトランプ氏が大統領に再選したら)」が現実味を帯びる展開で、来年以降の世界情勢がさらに混乱しかねない状況だ。
リーダー選びの「選挙イヤー」は、日本も同じ。岸田文雄首相の任期が9月に迫る自民党総裁選が最も注目されるが、与党の一角公明党、野党第1党の立憲民主党でも今秋に代表選が予定され、党の「顔」が代わるのか代わらないのか、注目が集まっている。
先陣を切ったのは共産党。今月18日の党大会で、約23年続いた志位和夫委員長が退任し、党史上初の女性委員長として田村智子氏の就任が決まり、野党の一角でリーダーが交代した。田村氏は「要請を受けた時は、率直言って驚いた」とした上で「プレッシャーはない」と強調。党勢の拡大へ、初の女性起用で刷新感を狙ったのではないかとの見方も多く、リーダーとしては未知数の田村氏の手腕が問われている。
野党では、第1党の立憲民主党でも9月に泉健太代表が任期を迎える。2021年衆院選後に創業者の枝野幸男氏の辞任に伴う代表選で勝利し、代表に就任した。代表ポストは初めてで経験不足への不安も出ていたが、当時、党関係者は「もし泉さんをおろすような動きが出てくれば、党も終わりだ」と話すなど、新たなリーダーをもり立てようとする空気はあった。
しかしこの2年あまり、政権追及の迫力に欠け、野党共闘に向けた流れも迷走。気付けば第2党の日本維新の会に脅やかされる立ち位置になった。露骨な「泉おろし」の動きはなくても、水面下では「ポスト泉」へのさまざまなうごめきが出始めている。昨年、政権交代への決意をめぐる泉氏の発言を疑問視した重鎮の小沢一郎衆院議員は、元日の私邸での新年会で「いい子ちゃんぶって、お利口さんぶっていては権力は取れない。本気になって戦って初めて、権力は取れる」と、泉執行部をけん制するように語った。なかなか存在感を示せないでいる泉氏にとって、秋までの月日は自身の評価を定めるまさに正念場の期間となる。
一方の与党。公明党の山口那津男代表も9月に2年の代表任期が満了となる。2009年9月から代表を務める山口氏の続投が有力視されるが、判断は次期衆院選のタイミング次第ともいわれている。将来的に世代交代の時期は必ずやってくる。そして、その衆院選のタイミングの鍵を握るのが、岸田首相だ。
9月の自民党総裁の任期満了を前提に、今後さまざまな政治日程が決まっていく。裏金事件など「政治とカネ」の問題を機に、これまで政権基盤を下支えしてきた派閥の解散の動きが党内力学に変化をもたらし、岸田首相にとって総裁選を戦う上でいい影響はないとの見方もある。
世論調査では、政策に対する支持も少ない。総裁選の再選は厳しいのではないかという声も聞くのだが、だれも想像していなかった自身の派閥(宏池会=岸田派)の解散を突然表明するなど、これまでにもたびたび見せてきた「サプライズ好き」に「ますます活路を見いだそうとしているのではないか」(永田町関係者)という声も聞いた。それが吉と出るか凶と出るのか、29日から本格的に始まる国会での岸田首相の言動が、大きな鍵を握る。
前回、日本の与野党第1党でともにリーダーが交代した2021年。総裁選に勝った岸田首相が衆院選でも勝利し、立民では枝野氏が代表を辞任して泉氏が就任。自民と立民で対照的な結果になった。今年はどうなるのだろうか。ちなみに7月7日には、小池百合子氏の3選が焦点となる東京都知事選も予定される。リーダーたちの顔はそのままなのか変わるのか、水面下の闘いは、すでに始まっている。【中山知子】