昨年の衆院選以降、東京都議選、参院選と大敗が続き、責任を問う声がやまない石破茂首相(自民党総裁)に対する「石破おろし」の党内抗争が、最終局面を迎えようとしている。総裁選前倒しを行うかどうか、前倒しに必要な国会議員と地方組織の過半数172人に到達するか、前倒しを求める場合は、党が用意する書面に署名、押印して、原則、9月8日に議員本人に党本部まで持参させることから、「まるで『さらし者』のよう」の声も聞く。提出時間も決められ、だれが持参するのか確認するため、党本部でメディアも待ち受けるだろうし、まさに「さらし者」になりそうな状況だ。

石破首相は、自民党のトップとして3回の重要選挙に負けたものの、頑として続投の意向を崩していない。そんな石破首相に対し、すでに腹をくくり、前倒し要求を明言する議員もいるが、各社のアンケートなどを見ると、様子見の議員も多いようだ。「党のトップを引き下ろすことにつながる総裁選前倒しは、事実上の倒閣運動。顔と名前をさらされるやり方にびびっている人も少なくないかもしれないが、やりたいなら堂々とやるべき。大将とケンカをする本当の権力闘争とは何ぞやというものを、最近の国会議員は知らないのではないか」。かつての永田町を知る関係者に話を聞くと、こうも話した。「権力闘争にはさまざまな『仕掛け』もある。頭脳戦なんですよ」。

「仕掛け」と聞いて頭に浮かんだのが、8月24日に都内ホテルの日本料理店で行われた、小泉純一郎元首相や山崎拓元自民党副総裁らと石破首相との会食だ。会食後、中の様子を明かした山崎氏によると、小泉氏が2005年、自身の長年の持論だった郵政民営化法案が参院で否決されたことを受け、衆院解散に踏み切ったことも話題になったという。当時、小泉氏は、郵政民営化に反対する自民党内の「抵抗勢力」に公認を出さず、新人の「刺客」を同じ選挙区に擁立。小泉氏の強烈なキャラクターに刺客作戦が重なり、「小泉劇場」と呼ばれる劇場型選挙となり、結局、小泉自民党の圧勝となった。

総裁選前倒しがもし実現した場合、石破首相は衆院解散に踏み切るべきと求める声も一部で出る中、濃いエピソード満載だった郵政選挙が話題になったことを、わざわざ表で話す山崎氏は、昨年5月、石破首相に総裁選出馬を進言した、ほぼ同じメンバーでの会食時にも、中でどんな会話があったかをレクチャーしてくれた。石破首相と同じ安全保障問題の論客で、政権発足後の石破首相の指南役でもあると聞いたことがある。こうした「仕掛け」が、プラスなのかマイナスなのかは分からないが、過去にあった生々しい権力闘争の話に石破首相が耳を傾けたことが表面化するだけでも、ザワつき感の演出にはつながったように感じる。

郵政選挙でいえば、衆院解散の直前、森喜朗元首相が公邸を訪れて小泉氏に解散を思いとどまるよう説得するシーンも設定されたが、公邸から出てきた森氏はビールの缶を手にしながら「干からびたチーズ(実際は高級チーズ)と缶ビールしか出さなかった。俺も、さじ投げたな」などと怒り交じりに述べ、小泉氏が「殺されてもいい」と語ったとぶちまけた。小泉氏の意思が固いことをにじませることで、「解散不可避」のムードを伝えるための言動で、「ひと芝居ぶった」ともいわれたが、森氏の言動も、権力闘争に向けた1つの「仕掛け」だった。

当時と今回と、政治状況はまったく異なるし、そもそも石破首相は選挙大敗の責任を問われている立場なのだが、政治家の権力闘争に向けた動きの中には、よくも悪くもこうした「仕掛け」が随所に出てくる。ただ、石破首相には、こうした「仕掛け」を通じて本音がにじむような機会を演出する場が、少なかったようにも感じる。

続投の意思は示しながら、なぜそうなのかという強い思いのようなものが、なるほど感あふれる理由も含めて、一般の国民にはあまり伝わっていない。首相自身は、世論調査の「トップが辞める必要なし」の声にも後押しされて意地になっているともいわれるが、これを「しがみつき」のように見る人もいる。

小泉氏の郵政政局時は、持論の政策実現という明確な意思がにじんでいた。一方で、石破首相は…。スポークスマン的立場ともいわれる山崎氏が「匂わせ」を仕掛けるくらいでは足りないような気もする。

総裁選前倒し意思確認前の9月2日に再び開かれる両院議員総会で、参院選の総括が発表される。その内容に納得感があるかどうかが、「石破おろし」の展開を大きく左右することになる。かつては分裂の歴史もある自民党で、久しぶりに起きている権力闘争。石破首相にとって、政治生命がかかった局面が近づいている。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)