お正月気分が吹っ飛ぶ衝撃の一手を繰り出した高市早苗首相の「通常国会冒頭での衆院解散検討」。与党に根回しすることなく、限られた側近と極秘決断したとされる高市首相の元に14日、自民党の鈴木俊一幹事長や日本維新の会合の吉村洋文代表らが官邸を訪ね、その場で1月23日召集の通常国会の「早期」に衆院を解散する方針が正式に伝わった。首相から、明日1月19日に記者会見を開き、自身の方針を国民に説明する考えも伝えられた。衆院解散は「検討」ではなく、「明確な意思」となった。
今のタイミングでの衆院解散は、「26年度予算案の年度内成立が困難になる」「なぜもっと早く国会を開かなかったのか」「大雪の地域は大丈夫なのか」など、連日、首相への批判や疑問がやまない。16日には、高市首相と決別して野党になった公明党が、立憲民主党と新党を結成して衆院選に臨むことが発表され、自民党内でも衝撃が走った。永田町は毎日、ドラマでも追いつかないくらいのジェットコースターのような展開が続いている。
「高市解散」を1つの政治ドラマとするなら、ストーリー前半のクライマックスとなるのが、明日19日に行われる予定の記者会見だと思う。首相はその場で、解散判断に至った経緯や、何より「大義」について、初めて国民に説明することになる。解散判断には、与野党だけでなく、国民の間でも賛否があり、大義を訴え、共感を得るには、明日が「大勝負」の場となることは言うまでもない。
高市首相は、持ち前の目力や「言葉力」だけで、自身の思いを表現するのだろうか。何か「演出」のようなことも考えているのだろうか。
そう感じるのは、衆院解散宣言の場の演出で、空気をガラッと一変させた総理大臣もいたからだ。
2005年8月8日、小泉純一郎首相は、持論の郵政民営化法案が参院本会議で否決されたのを受けて、衆院解散・総選挙を閣議決定し、その日のうちに衆議院を解散した。夜の8時30分すぎに首相官邸で始まった会見の会場は、普段は青しか見たことのない首相の演壇の背景が、深紅の幕に変えられていた。「天動説」が言われても「地動説」を唱え、有罪判決を受けても「地球は動く」と持論を曲げなかったガリレオ・ガリレイに自らを重ね、「郵政民営化は必要ないと国会で結論を出されたが、賛成か反対か、国民のみなさんに聴いてみたい」と、解散に踏み切る理由を、時に鬼気迫る表情で語り掛けた。
「過半数が取れなければ、私は退陣する」と退路も断った姿は、背景の「燃える赤」の色彩効果もあいまってか、見ていて一種のすごみが漂った。その瞬間から始まった「小泉劇場」は、いわゆる劇場型選挙の先がけとなり、小泉自民党は圧勝。過半数割れどころか、与党で当時の衆院定数の3分の2を超える議席を獲得するに至った。
同じ深紅の幕は、その4年後の2009年7月に衆院解散を表明した麻生太郎首相も使用したが、その後の衆院選で自民党は惨敗し、麻生氏は政権を失った。衆院解散で臨む選挙にかける執念は、小泉氏は突き抜けていた。だから国民の心に響く部分もあったと、今も感じる。当時を知る関係者に話を聞くと「あの会見は、小泉さんの『ケンカ上手』さが見事にはまった」とした上で、「勝負をかける以上、記者会見は、国民に印象に残るものでなければならない」と語った。
高市首相は、自民党総裁選挙の勝利後に「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」と、鬼気迫る表情と口調で、自身の決意を所属議員に訴えかけた。賛否は別にして、言葉に込められた真剣な思いが国民に刺さったからこそ、新語・流行語大賞にも選ばれるような言葉となったのだと感じる。
1月9日の読売新聞電子版で初めて、高市首相の「衆院解散検討」が報道されてから、会見まで10日の期間があることになる。解散への賛否が出たり、前出の立民と公明の新党結成という衝撃的な動きもあったがその間、高市首相は会見への戦略を練る時間をたっぷり確保したことにもなる。
明日の会見は、夕方の時間帯に開かれる予定だ。夕方のニュース番組に合わせた時間帯で、国民の目に触れやすいタイミング。背景の幕の色がどうなるかは分からないが、今回の高市首相の衆院解散の経緯を、周囲の反対や批判に屈せずに押し切った「小泉郵政解散」と比較して語る声は、少なくない。
参議院で法案が否決されたからといって衆院を解散する「大義」には疑問の声もあったが、小泉氏は言葉や空気、そして緻密な戦略もあり、あっという間に有権者の共感をつかんだ。高市首相は、「大義なき解散」と批判もある今回の判断に、どのような形で共感を呼び込もうと考えているのだろうか。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


