やらなきゃいけないと分かっているのに、なかなかやる気が起きない。この「やる気」の正体は何だろう。答えは、脳の神経細胞と、神経細胞の間を飛び回っているドーパミン。別名「快感ホルモン」といわれる神経伝達物質だ。「報酬系」といわれ、欲求が満たされたときに快感をもたらすのだ。

・快感ホルモンの秘密

 人間の欲求には、「眠りたい」「食べたい」「セックスしたい」「闘っても生き抜きたい」という生きるための本能的なものから、「褒められたい」「評価されたい」「愛されたい」といった社会的なものまで、実にいろいろある。

 ドーパミンは、これらの欲求が満たされた時の快感を餌に、人を動かそうとする。このドーパミンに支配されて、依存症になっている人もいる。アルコールを飲めば、ドーパミンが出て気持ち良くなることを知ってしまうと、仕事が成功した時のドーパミンよりも、お手軽な酒で、快感を満たすようになる。これでは人生の本当の快感は得られないのだ。

・成功体験が大切

 やる気の正体は、この快感ホルモンなのだ。1度ドーパミンを出した経験が、快感の記憶となる。またドーパミンが出るようなことをしたいと思って、その快感につられ、人はやる気を起こすのである。人間は単純にできている。人に褒められたり、良い成績を取ったりすると、ドーパミンの快感体験が、脳の中の海馬(かいば)に記憶され、もっと大きな快感を得ようとして頑張ることができる。

 部下のやる気に火を付けるには、褒めて育てるのが脳科学的に理にかなっている。もちろん自己肯定も大事。自分で自分をリスペクトすることは、自分の中にやる気を引き起こすために、大事なことである。

 ◆鎌田實(かまた・みのる)1948年(昭23)6月28日生まれ、東京都出身。東京医科歯科大医学部卒。長野・諏訪中央病院院長で「健康づくり運動」を実践。脳卒中死亡率の高かった長野県の長寿日本一に貢献。04年からイラク支援を始め、小児病院へ薬を届けたり北部の難民キャンプ診察も続けてきた。文化放送「日曜日はがんばらない」(毎週日曜午前10時)出演。