鬼の居ぬ間の襲来だ。安倍晋三首相(自民党総裁)は18日、公示後初めて東京都内で街頭演説し、小池百合子・希望の党代表のかつての地盤、東京10区で自民党への支持を訴えた。今夏の都議選応援で、自身に批判的な聴衆のやじを受けたこともあり、公示後は都心の遊説は封印。しかし、同区は自民VS希望VS立憲が大激戦。自民堅調の勢いを受け、勝敗が小池氏の今後に影響しかねない「百合子の聖地」で、東京遊説を“解禁”した。一方、小池氏は知事公務を挟みながら遊説を行った。
「百合子の聖地」が、安倍コールに包まれた。首相は18日夕、JR池袋駅東口で、党公認の鈴木隼人氏の応援をした。衆院選公示から8日、都内遊説は初めて。首相は「この選挙は北朝鮮の脅威から国民の命や幸せな暮らしを守り、子供たちの未来を切り開くための選挙だ」と切り出し、安倍政権の実績を並べ連ねる、今回の遊説パターンを踏襲。党内からも説明が求められている森友&加計問題への言及は、一切なかった。
首相は今年7月、都議選最終日の東京・秋葉原での遊説で、「安倍辞めろ」とやじを飛ばされ「こんな人たちに負けるわけにいかない」と発言。自民の都議選惨敗の一因をつくった。衆院選公示前に行われた千葉県内の遊説でも、大規模な「辞めろコール」が発生。自民党や首相サイドは「アキバの再来」を避けようと、都心遊説解禁のタイミングを慎重に見極めてきた。
そんな中、自民党は16日夜の選対会議で終盤の重点区を精査。小池氏の側近、若狭勝氏が出馬する東京10区は、立憲民主党の鈴木庸介氏も加わり、大激戦だ。東京では、都議選で小池氏率いる都民ファーストの会に惨敗した経緯があり、「何があっても負けられない」(自民都連幹部)最重点区に指定された。
小池氏が長く地盤にしてきた10区の勝敗は、今後の小池氏の影響力も左右する。ここ1年あまり続く自民VS小池氏の戦いに、国政選挙で決着をつける意味でも、象徴的な小池氏の「本丸」が、首相の東京遊説の解禁地に選ばれた形だ。
首相は、小池氏本人には触れなかったが「当選するためにコロコロ政党を変える人を信用できますか。我々は政権を失った時も、名前は変えなかった。今回は誰が信頼できるかを決める選挙だ」と、民進党議員が多数集まった小池氏率いる希望の党を切り捨てた。
聴衆は5000人以上。この日は批判的なやじはほとんど飛ばず、首相の演説後は「アンコール」の声も。自民党は最終日の21日、都議選リベンジの意味でも、アキバでの街頭演説を検討している。【中山知子】