将棋の羽生善治棋聖(47)が5日、「永世7冠」の偉業を達成した。第30期竜王戦7番勝負第5局(鹿児島県指宿市「指宿白水館」)に挑戦し、87手で渡辺明竜王(33)を下した。対戦成績を4勝1敗としてタイトルを奪還。通算7期目の竜王獲得となり、「永世竜王」の条件(連続5期または通算7期)を満たした。他の6冠(名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)はすでに「永世」称号を持っており、将棋界史上初の永世7冠となった。

 羽生は右手人さし指を伸ばし、「永世7冠」への一手を指した。背中を少し丸めたりしていた渡辺の投了する姿が見えた。前人未到の記録達成だ。「思い切って積極的に行こうと思っていた。今はほっとしている」と喜びをかみしめた。

 竜王は1989年(平元)12月に当時の史上最年少記録となる19歳3カ月で初めて獲得したタイトル。翌年失ったが、91年3月に棋王を獲得し、96年3月には7冠全制覇を果たした。その後も何かしらのタイトルを保持し、99期を数えた。

 1期獲得するだけなら、芸能界と同じ「一発屋」で終わる。「タイトルは奪って守って一人前」と言われる世界で、時に独占し、時に1冠になりながらも、先頭集団に位置して走り続けた。「25歳の時(7冠達成)はデビュー10年、今は30年が過ぎて、その積み重ねの中でたどり着けた」と感慨深げだった。

 9年前、1度は永世7冠に王手をかけた。風邪で体調を崩すなどして、渡辺相手に将棋界初の3連勝4連敗を喫した。7年前にも渡辺に挑戦したが、2勝4敗。今年9月、7期ぶりに挑戦者となった。

 この先、いつ訪れるか分からないチャンスに、「自分にとって最後かもしれないという気持ちで臨んだ」と振り返った。今期の竜王戦は、しっかり踏み込む指し回しを見せた。

 将棋界は昨年秋の不正疑惑と対応の不手際に揺れた。今年1月、谷川浩司会長が引責辞任。佐藤康光会長が後を引き継いだ。加藤一二三・九段の引退、史上最年少プロの藤井聡太四段のデビューと話題が続き、今年最後は羽生が偉業で締めた。今後の目標について聞かれ「もちろん記録は目指すが、将棋そのものを本質的にまだ分かっていないのが実情。自分自身が強くなるという姿勢で次に進んでいけたら」と、さらなる高みを見据えた。

 ◆羽生善治(はぶ・よしはる) 1970年(昭45)9月27日、埼玉県所沢市生まれ。その後、東京都八王子市に転居。小1で同級生から将棋を教わる。85年、中3の時に加藤一二三、谷川浩司に次いで3人目の中学生プロ棋士に。89年に竜王となり初タイトル。94年、念願の名人獲得。96年、谷川浩司王将に挑戦。見事奪取し、将棋界初の7冠全制覇を達成。タイトル獲得通算99期(竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16)。12年通算タイトル81期と歴代単独トップに。通算1391勝562敗。家族は元女優の(畠田)理恵夫人と2女。