今、世界で最もホットで深刻な問題の1つ、石油ベースのプラスチックごみ問題。2回目は海の汚染状況について、プラごみ問題の第一人者、東京農工大の高田秀重教授に聞いてみました。

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Q このままプラごみ問題を放置しておくと、2050年には海の中の魚とプラスチックの重さが同じになってしまうかもしれないということですが、現実にどのような影響が出ていますか

高田先生 生態系全体にプラスチックの影響が広がっています。大きなプラスチックは、海の大きな生物や海鳥がエサと間違えて食べてしまいます。例えば、タイで見つかったクジラの胃の中から、レジ袋が80枚見つかりました。体重500グラムの渡り鳥のおなかには、数ミリ~1センチのプラスチックが0・1~0・6グラム入っていました。体重50キロの人間に60グラムのプラスチックが入っている換算になります。ペットボトルのふたが食道に引っかかって、死んでしまった海鳥もいます。

海や川岸などに捨てられたプラスチックは、紫外線や波の力でどんどん小さくなっていきます。5ミリ以下になったものをマイクロプラスチックと呼びます。東京湾の海岸の砂を透明な瓶に入れ、水を注いでまぜると、色とりどりの小さなプラスチックが浮かんできます。これがマイクロプラスチックです。

このように小さくなると回収できず、いつまでもどこかに存在し続けます。これを小魚や貝が取り込んでいます。生態系を壊さずに、こうしたプラスチックだけを集める技術は、今のところありません。使い捨てプラスチックの大量使用や黒潮の関係もあり、日本周辺の海域のマイクロプラスチックの量は、世界の平均より30倍くらい多くなっています。

Q 生物が食べても、プラスチックは排せつされるのではないですか

高田先生 多くはやがて排せつされますが、プラスチックに含まれていたり、くっつけてきている有害な化学物質が、脂肪や肝臓など体内にたまっていきます。プラスチックは、環境ホルモンのような有害な化学物質の運び屋です。もともと製品には劣化を抑えたり、燃えにくくする添加剤が加えられています。マイクロプラスチックになっても残っています。例えば、ペットボトルのふたは柔らかいプラスチックで作られていて、より劣化しやすいため、添加剤がたくさん使われています。海に入ると浮いてただよい、紫外線によってマイクロプラスチックになります。

またプラスチックには、海水中にある、いろんな化学物質をくっつける性質もあります。こういう化学物質は水に溶けにくく、油に溶けやすいので、石油からつくられたプラスチックにくっつきやすいのです。今、調査研究が行われていますが、食物連鎖によって、人間が間接的に取り込む可能性もあることになります。【聞き手・構成=久保勇人】

◆高田秀重(たかだ・ひでしげ)東京都出身。東京農工大農学研究院教授。マイクロプラスチック問題の世界的権威で、国連の海洋汚染専門家会議のワーキンググループ・メンバーとして世界のマイクロプラスチックの評価を担当している。