6日に86歳で亡くなった金田正一さんの現役時代から引退後も長い親交のあった作家石原慎太郎氏(87)が7日、金田さんを悼み、思いを語った。

彼とは山中湖の別荘が隣同士でね。2人でよくゴルフをしました。プレー中、彼が足を蹴り上げたり、腕を上げたりするんだが、左腕を見せてね。「俺はこの腕で日本のプロ野球に何十億も稼がせてやったんや」。まさにその通りだと思っていた。

国鉄スワローズが負けてばかりのころ、金田しかいなかった。孤軍奮闘でね。それは見事な「男」でしたよ。

浅利慶太が神宮球場の近くに住んでいてね。飲んだ後、役者とかと連れだって、試合をよく見に行った。スワローズの選手に「おまえらそれでもプロか」とぼろくそにやじってやった。選手たちがベンチから出てきて怒鳴り返してきた。そうしたら金田も出てきて、こちらに腕を突き出して「こら!」と威嚇してくるから「金田、本物のプロはお前だけだ!」と叫んだ。彼は「サンキュウ!」と手を挙げたね。それで大いに満足して、球場を後にしたよ。

巨人に行った時は金田正一が強さと権威に憧れるのかと批判しましたよ。400勝を目前にしてもたもたしていた時、「400勝したら必ず辞めろ」と言ったんだ。彼は「俺は来年も10勝はしてやる」と言ったが「みっともないからやめろ」と言った。彼は「君はなんでそんなつらいことを言うんだ」と言った。「僕はね、君が好きだし、素晴らしいと思っているから言うんだ」と伝えました。

400勝した時、電話がかかってきてね。「俺は君が言う通りに辞めるよ」。僕は「君らしくていいな」と言った。彼が「慎太郎さん。俺は野球しか知らんのや。これから何やったらいい」と聞くからテニスを勧めた。彼の左腕で打ち出すサービスだったら誰もとれやしない。彼は「やったろかな」と乗り気になったが「それで、テニスは金になるんか」と聞くから「ならない」と言うと「なら、やめた」とやめてしまった。

残念だが、仕方ないよ。でもね、彼のおかげで、プロ野球は華やかだった。長嶋茂雄からも4打席連続三振を取った。あれは長嶋のためにもよかったと思うね。印象深い男だった。(取材・構成=清水優)