ラグビー日本代表の躍進を支えたWTB福岡堅樹(27=パナソニック)には、第2の人生の夢を支える「チーム」がある。現役引退後、大学の医学部に入学して医師を目指す福岡の学習体制をサポートする大手進学塾「英進館」(本社福岡市)だ。小中の約4年間通った福岡は、筑波大卒業後の16年4月から再び在籍。かつてのクラス担任で、今も担当する神田岳彦さん(49)は「落ち着いたら本格的に勉強を始めてほしい」とねぎらった。21年春の「サクラサク」を目指す。

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「本当に良くやったと思います」。現在、英進館天神本館の高等部本部課長として福岡を支える神田さんは20日、福岡市内のパブリックビューイング会場で試合を見守った。福岡は、7人制の代表を目指す来年の東京五輪後の現役引退を表明。15人制の代表は一つの区切りだった。神田さんは福岡の胸中に思いをはせ「全力で戦ったと思います」と、教え子をねぎらった。

福岡は小5の3学期から中3まで英進館に通い、神田さんは中3時のクラス担任。中学時代の福岡は学校で陸上部、週末はラグビーの練習に明け暮れた。もともと成績は良く、福岡屈指の進学校、福岡高を志望。塾の模試で「A判定」が出なかったのは1度だけだが、塾に通えない福岡のために友達がプリントや授業ノートのコピーを渡して支えた。「彼は勉強も一生懸命で周りが応援したくなる。いつも『ありがとう』と感謝していた。気遣いが細かい。そういうやつです」。

福岡と神田さんは一時、疎遠になった。福岡高受験直前の授業時、神田さんが指導の過程で福岡をしかったことがある。福岡自身は納得できなかったようで、合格の報告にも来なかったそうだ。その後も神田さんは教え子の活躍を気にかけ、福岡がいずれ医学部受験を目指していると知った。前回15年のW杯後、「私どもにできることがあれば」と、母のぶさんに連絡。第2の夢の実現へ、新たなプロジェクトが始まった。

福岡は現在、インターネット配信の授業を受講。90分×20回分の1講座を、年間14講座分、申請。時間がある時に数学、英語、生物などを学ぶ。神田さんはメールやLINEで連絡を取り、5月には福岡に東京五輪後の指導計画も示した。W杯期間中は試合に集中した福岡。志望校も考えているといい、21年4月の医学部入学が最速の目標だ。

「インタビューで『犠牲』という言葉を使った彼の言葉を借りれば、大学入学に向けては、勉強以外のものをすべて犠牲にするでしょう。彼には常に、目の前に今、やらないといけないことがある。今は時間がなくても、勉強を始めたら死ぬ気でやります」と神田さん。「ノブレス・オブリージュ(能力ある者の責務)」という言葉を、福岡に重ねた。同塾に通う中学、高校生の多くが部活を続けている。部活とラグビーを続けて志望校に合格し、ラグビーのトップ選手として医学部を目指す姿は、「生きた教材」でもあるのだ。

W杯で存在感を示したスピードスター福岡。医学部合格への歩みは1歩1歩、地道だ。神田さんは「落ち着いたら(勉強のため)自分の時間をつくってほしい」と話した。【中山知子】

◆福岡堅樹(ふくおか・けんき)1992年(平4)9月7日、福岡・古賀市生まれ。5歳の時「玄海ジュニアラグビークラブ」でラグビーを始め、福岡高3年時には全国高校大会(花園)に出場。医師志望で複数の大学の誘いを断り、1浪後に筑波大(情報学群)に進学。15年W杯でも日本代表。祖父は内科医、父は歯科医。175センチ、83キロ。

◆英進館 79年4月創業の大手進学塾。福岡県を中心に九州の7県と広島県に58の教場がある(18年2月現在)。九州、全国の難関中学、高校、有名大学に多くの合格者を輩出。今年の東大合格者は53人。医学部進学に定評がある。在籍生徒数3万5925人(17年8月)。筒井俊英社長。