将棋の藤井聡太七段が8日、17歳10カ月20日のタイトル戦史上最年少挑戦記録を白星で飾った。東京・千駄ケ谷で行われた、第91期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負第1局で、渡辺明棋聖(棋王・王将=36)を下した。屋敷伸之九段(48)が1990年(平2)に達成した18歳6カ月という初タイトル獲得最年少記録の更新に向け、好スタートを決めた。第2局は今月28日、同所で行われる。

   ◇     ◇     ◇

初のタイトル戦でも、藤井はいつも通りだった。紺のスーツ姿。「大きな舞台で袖を通したい」と昨年5月、地元愛知県瀬戸市で行われた「瀬戸将棋まつり」で話していた、着物にはかま姿は、着付けの際の「密」回避で、封印した。マスク姿で盤の前に座ると、初手「お茶」で、最初の1手を指す前にお茶を口に含む。大一番は意識せず渡辺棋聖を封じる形で勝利した。

4月10日に王位戦挑戦者決定リーグ戦を指した後、対局がなくなった。同月17日に予定されていた棋聖戦挑戦者決定トーナメント準決勝は延期。新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴う緊急事態宣言の全国的な解除を受け、6月2日の開催が急きょ、決定。同時に4日決勝、8日は5番勝負第1局と、異例の強行日程に。結果的にこれが後押しとなり、史上最年少でのタイトル挑戦が実現した。

千駄ケ谷対局では、地方転戦時のような前日移動や前夜祭などの行事はない。今回は朝8時に集まり、対局室の照明や盤、駒の検分をしただけ。普段とほぼ同じ場所と雰囲気で臨めた。

デビュー3年目、確実に力をつけてきた。17年はデビュー29連勝の連勝新記録を達成後、上州YAMADAチャレンジ杯、加古川青流戦、新人王戦と、準々決勝で敗れている。

18年は朝日杯準々決勝で、当時名人の佐藤天彦九段を倒した。前年越えられなかった壁を初めて突破すると、朝日杯で15歳6カ月の史上最年少で、全棋士参加棋戦初制覇を果たした。

さらなる高みへの挑んだ19年には、「1勝の重み」を思い知らされた。同年2月、8連勝で迎えた順位戦C級1組で近藤誠也五段(段位当時)に敗れ、B級2組への昇級を逃した。11月の王将戦挑戦者決定リーグでは広瀬章人竜王(肩書当時)との直接対決で敗れ、タイトル初挑戦はならなかった。

王将リーグの戦いぶりを見た師匠の杉本昌隆八段は、「実力は示した。タイトル挑戦はもう手の届く位置にある」と評していた。今年、史上初の3期連続勝率8割超えを引っ提げて臨んだタイトル戦初挑戦で、白星を得た。第2局で連勝なら、史上最年少でのタイトル獲得がより現実味を帯びてくる。【赤塚辰浩】