藤井聡太2冠(棋聖・王位=18)は2020年も将棋界の主役だった。棋聖戦5番勝負では現役最強ともいわれる渡辺明棋聖に挑んだ。高い壁かと思われたが、7月には17歳11カ月の最年少で初タイトルを獲得した。18歳1カ月となった8月に王位も獲得し、史上初の「10代2冠」を達成した。

2つのタイトル戦での戦績は7勝1敗。異次元の強さに渡辺は「すごい人が出てきた」と脱帽した。トップ棋士たちが本気の「藤井対策」をする中での快挙には“巣ごもり効果”があった。

名古屋大教育学部付属高3年生。棋士と学業の両立で、多忙な日々を送っていたが、コロナ禍で対局もできなくなり、学校も休校になった。4月からの約2カ月間の「巣ごもり」生活では「しっかりと自分の将棋に向き合うことができた」。充実の日々を過ごし、一気にカベをぶち破った。

初のタイトル挑戦となった棋聖戦第2局に強さが集約されていた。中盤、攻めのため駒台に置いていた銀を受けに使った。この局面で人工知能(AI)を使った最強の将棋ソフトは4億手を読み、最善とは判断しなかった。ところが、長時間かけて6億手まで検討すると、絶妙手と判明。「AI超え」は今年の流行語大賞にもノミネートされた。

タイトル獲得後、念願だったパソコンを自作した。データ処理のスピードは世界トップクラスの「モンスター級」だ。将棋界ではAIによる研究が全盛時代を迎え、藤井はAIとの「共存」を見つめる。「判断そのものをAIに近づけていくのではなく、もともとの自分の考え、判断にAIの感覚を加え、どんな局面でも通用する形勢判断ができるようにと思っている」。

87年新人王戦準優勝の引退棋士(七段)で、AI学者の北陸先端科学技術大学院大学の副学長・飯田弘之氏(58)は「藤井さんはAIから何かを会得し、他の棋士よりも先にモノにしている。まだまだAIから学べる。もっと強くなる」と分析した。来年はタイトル初防衛、複数冠タイトル獲得だけではなく、従来の発想を超える指し方にも注目が集まる。【松浦隆司、赤塚辰浩】

◆藤井2冠、20年の記録 3月には名人戦順位戦C級1組を10戦全勝でB級2組に昇級。6月には竜王戦3組ランキング戦決勝で、師匠の杉本昌隆八段を破り、史上初の「4期連続優勝」の新記録を達成した。7月に棋聖、8月に王位も獲得し、羽生善治九段の持つ最年少2冠の記録(21歳11カ月)を大幅に塗り替え、同時に八段昇段の最年少記録も樹立した。11月には通算200勝。