今年9月の自民党総裁選に出馬し、3選された安倍晋三首相に敗れた石破茂元幹事長(61)に「今年の漢字」を選んでもらった。石破氏が色紙に記したのは「挑」の字。「自己保身を考えず、挑む姿勢はなくしたくない。来年もそうありたいですね」。さらなる挑戦を続けることを誓った。

   ◇   ◇   ◇

-ご自身にとって、今年の漢字を一文字で表すと

 石破氏 「挑」です。リスクを取ることを恐れてはいけない。挑む、とはそういうこと。まもなく平成も終わり、これから人口は急減し、世界情勢も変わろうとしている。今までとはまったく違う状況が我々の前にある。リスクを取らずに挑むことを止めたら、衰退が待っているだけのこと。国会議員は、自分ではなく公のために働いている。自己保身を考えず、挑む姿勢はなくしたくない。来年もそうありたいですね。

-挑む政治家ばかりではなく、守る政治家もいる。来年の日本政治の課題は

 石破氏 だれがどうだと論評するつもりはまったくないが、(これからは)世の中を変えていかないといけない。これまでは、いろんな課題を先送りするということが日本の「お家芸」だった。人口が増え、経済が伸びている時は、先送りすれば課題は解決する。財政の健全化、防災対策、安全保障政策にしても、難しい本質は先送りし、その場で解決できそうなことは対応するということだった。 憲法もそうかもしれません。憲法改正、消費税引き上げ。社会保障改革、構造改革も先送りしてきた。今までは先送りすることがベストな解決方法でしたが、もうそれが通用しない社会になったことは分かっている。その時に、政治をやる側が保身に走っては解決しない。挑めば、リスクも大きいしバッシングも浴びるし、世の中の理解も得られないことがある。いやですよ、それは(笑い)。でも、だれかがやらないと変わりません。

-「危機管理の専門家」という自負がある。

 石破氏 常に、最悪の時はどうなるということをイメージし、最悪の時にどのように対応できるのか、ということを知っていないと、想定外の事が起きた時、どうしていいか分からない、あわわとあわてる状態になる。日頃から、「最悪の状態になったら…」と考えるのは、幸せな人生ではありませんが。

 総裁選の時に、「防災省をつくりましょう」と強く主張しました。政府の中に、常に24時間365日、5年、10年、そのことだけを考えているセクションは必要ではないか、と思い続けています。いまだにそうならない。総裁選のテーマではありましたが、具体化に至っていない。

 憲法改正もテーマでしたが、1項、2項をそのままに、3項に自衛隊を書くだけです、いいでしょ? ということでは、「挑んだ」ことにはなりません。「当たって砕けろ」という言葉がありますが、砕けては仕方ない。「挑む」というのは、とにかくやればいいのではない。理解を求めていかないといけない。すごい、しんどいことですよ。

 私がずっと地域を回っているのは、あいつの話を聞いたら、「そうじゃないか」と思ってくれる人を増やしたいと思うから。全国1718市町村、1億2700万人。あまりに相手が膨大すぎます。挑み続けるというのは、疲れるね。

-「挑」は、来年の課題でもある

 石破氏 常にそうです。そういう気持ちがなえてしまっては、政治家をやめなくてはならない

-2018年は、災害が1年を象徴する出来事でした。「防災省」への理解も広がるのではないですか

 石破氏 そうだと思います。ただ、「つくりましょう」と言って、「そうだ」と言ってくださる方は多いが、(本当は)面倒くさいことはしたくない。省庁再編にもなるし、イニシアチブはどこが持つのか、国交省なのか消防庁なのか、警察なのか。自衛隊との関係はどうするのか。あまりにも膨大な作業が必要ですが、それが行政側の理屈。国民はそうは思っていない。

 「防災省」ができたからといって、災害がなくなるわけではない。これからも災害は起きます。でも、1718市町村、どこでも同じように対応できるようになるのは重要。意識の高いトップがいれば助かるし、そうでなければ大勢が亡くなるということではどうにもならない。災害時の避難の仕方、各省庁の連携はこうするとか、標準化されないといけない。これだけ災害が起きて、常に「教訓」が語られるが、また同じようなことが起きる。あの時の教訓はどうなったか、ということになっている(のが現状)。

-「防災省」は、与野党で合意できる部分がかなりあるのでは

 石破氏 いっぱいあると思います。今年ずっと議会を見ていて、自民党総裁選もそうですが、そこで議論されたことは、法律ができたり総裁選の結果が出たら、きれいさっぱり忘れ去られる。選挙で多数を取っているから政府与党ですが、(議論の中で)いろいろ課題は生じるし、反対という人もいる。そこで調整し、野党の意見も取り入れ、最後まで反対にしても、「この部分は理解できる」「自分たちの主張も取り入れられた」ということにならないと、議会は、政府が示した案を追認する「採決マシン」の役目しか果たさなくなる。それでは議会の意味がなくなる。

-今年の国会を見ているようです

 石破氏 法案は一字一句修正しない、予算は1円たりとも修正しないと言えば、多数を持つ方が勝つに決まっている。そうなると、野党の出番はなくなるので、どうしてもスキャンダル系の話題で世論をあおるというか、それしか手段が残らないんです。

 (民主党政権時に)東日本大震災の大津波がありましたが、我々が野党の時は、スキャンダル系だけで国会論戦に時間を費やすことはしたくなかった。当時も鳩山さんや小沢さんの政治資金問題など、いろんなスキャンダルネタはあり、これをもっと突くべきという意見もありました。ただ、私は自民党が野党3年3カ月の間、2年間政調会長を務めましたが、スキャンダル系だけをやるのはやめようと。それだけで内閣を倒すことはできない。政策で勝負する、ということでやってきた。

 現在、自民党や政府が、予算も法案も修正しないという姿勢を示す限り、臨時国会の予算委員会でも片山さつきさんの政治資金の話や、桜田義孝さんがパソコンを使えるか、使えないとか@なか(の話題になった)。国民は、そんな話は聞きたくないということだったのではないかと思う。

-国会を正常に戻すのは、与党の責任も必要

 石破 責任は与党側にあると思う。憲法改正にしても、安倍首相自身が国民に、1項、2項はそのままで3項を付け加えるという意義を、きちんとされたことがない。北方領土でも、仮に2島返還ということになれば、今までの方針とは全く違う。「なぜなのか」を説明しないと、国民の理解は深まらないと思います。(談)