将棋の史上最年少3冠、藤井聡太王位(叡王・棋聖=19)が4冠獲得を目指して豊島将之竜王(31)に挑戦する、第34期竜王戦7番勝負第1局が9日、東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で行われた。8日午前9時からの2日制で始まった対局は9日午後7時25分、123手で先手の藤井が勝ち、タイトル奪取に向けて好発進した。

最初は劣勢に立たされたが盛り返し、もつれた展開から最後に抜け出した。勢いに乗って2連勝するか、豊島がタイに追いつくか。第2局は10月22、23日、京都市「仁和寺」で行われる。

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息を吹き返した。71手目の先手6六金を79分考えている最中、藤井は手を尽くそうとしていた。豊島に決め手を与えないように粘る。この時点での評価値は、おおよそ40%対60%で推移していた。豊島の76手目、後手7七飛成とした瞬間に評価値は58%対42%と逆転した。終盤までもつれるなかで寄せ手順を読み切った。「1手1手難しかったです。金が上ずった分、常に自信が持てない展開だったが、粘り強く指せたと思います」と、冷静に振り返った。

王位戦7番勝負、叡王戦5番勝負に続き、豊島とは三たび頂上対決で相まみえることになった。第1局は振り駒。と金4枚で、先手を引いた。本年度の藤井はここまで31勝6敗。このうち先手では17勝1敗。唯一の敗戦は6月29、30日の王位戦第1局の豊島戦だけだった。

豊島とはこれで9勝9敗。対戦成績を五分に戻した。初顔合わせとなったデビュー1年目の2017年(平29)8月の棋王戦挑戦者決定トーナメントから6連敗を喫した。天敵に全く歯が立たない状態だった。今年1月の朝日杯準々決勝で初白星を挙げると、王位戦7番勝負は4勝1敗、叡王戦5番勝負も3勝2敗と、今年だけで8勝3敗と巻き返していた。

今回4連勝でタイトルを獲得しても、19歳3カ月を超える。89年に竜王を19歳3カ月ちょうどで獲得した羽生善治九段(51)の最年少獲得記録にはわずかに及ばない。だが、史上最年少4冠にはなる。

竜王戦の優勝賞金は4400万円と将棋界最高。初タイトルとなる棋聖と、王位を相次いで獲得した昨年の藤井の対局料と獲得賞金は4554万円(19年は2108万円)だった。この2つを防衛し、叡王も獲得した今年、竜王まで加われば1億円超えは確実だ。もちろん、これも最年少記録になる。「次局以降も全力を尽くして戦いたい」。偉業に向け、大きな大きな一歩を踏み出した。【赤塚辰浩】

◆竜王戦 九段戦、十段戦を発展的解消し、1988年(昭63)に創設。優勝賞金4400万円は将棋界最高金額。1~6組に格付けされたランキング戦(予選)を行う。1組の上位5人、2組の優勝者と2位、3~6組の優勝者の計11人による決勝トーナメントを行い、決勝進出両者による3番勝負で挑戦者を決める。竜王と挑戦者は例年10~12月に7番勝負を行う。89年にはタイトル戦初登場の羽生善治が、当時の最年少記録となる19歳3カ月で竜王を獲得。その羽生は18年に広瀬章人八段に敗れて竜王を失って以来、無冠となっている。かつては海外対局も行っていた。

【竜王戦7番勝負第2局以降の日程】

◆第2局 10月22、23日、京都市「総本山仁和寺」

◆第3局 10月30、31日、福島県いわき市「雨情の宿 新つた」

◆第4局 11月12、13日、山口県宇部市「ANAクラウンプラザホテル宇部」

◆第5局 11月26、27日、岡山県倉敷市「円通寺」

◆第6局 12月4、5日、鹿児島県指宿市「指宿白水館」

◆第7局 12月17、18日、山梨県甲府市「常磐ホテル」