日本各地で海外からの観光客でにぎわうゴールデンウイーク(GW)となっているが、東京・築地でも6日、約3万人の観光客でごった返した。

「毎日、作っているけど、ローストビーフ、売り切れたよ」と築地場外の東通りから悲鳴ともつかない雄たけびが響き渡った。声の主は精肉店「近江屋牛肉店」の寺出昌弘社長(59)だ。このGW用に「ロースト肉&焼き肉バイキング」と称して、牛、豚、鶏などの加工肉10種を2個セットで1000円という破格セールを実施。この日だけで150セットを売り切った。「もうビックリ。普段なら20セットぐらいなのに。今年のGWは規格外」とできたてのローストビーフをスライスしながら額の汗をぬぐっていた。

昨年9月、岸田文雄首相は滞在先の米国で、2022年10月11日から1日当たり5万人と制限していた入国者数の上限を撤廃すると宣言した。開業から94年のつくだ煮専門店「諏訪商店」の諏訪敏彦社長(61)は「岸田さんの宣言から2週間ぐらいで外国人のお客さんが分かりやすく増えました。GWだからインバウンドが増えたということではなくて、築地はすでに準備ができていました」と話し「それでも、今回のGW、人の波は尋常じゃない」とつぶやいた。

鶏&鴨肉卸商「鳥藤(とりとう)」も、本店ですぐに食べられるやきとりや弁当を販売していたが、このGWから人気商品のフライドチキンを串に刺して1本170円で売り出した。鈴木昌樹社長(45)は「300本売れた。売り方を変えただけなのに。でも、インバウンドは本当にありがたい。GWでこんなに人がいるのは4年ぶりですから」と腕組み。続けて「でも、これだけ外国人の方々であふれると普段づかいの生の商品が正直売れない。夕方からの営業も考えないといけない時期に入ってきた」とインバウンド景気で盛り上がる中での問題点に頭を悩ませていた。

18年10月に豊洲市場が開場し、築地から市場がなくなった。今の築地場外は路地の入り組んだ巨大な商店街で市場ではない。市場が隣地にあったころから現在も、場外の営業時間は早朝から午後2時。普段づかいの常連からは夕方の営業を熱望する声が上がる。鈴木社長の耳にも届いているが「ただね、慢性的な人不足でなかなか難しい問題です」と需要と供給のバランスが取れないことが課題と話した。

一方で、すでに市場の営業時間にかかわらずにお客を受け入れている実例もある。諏訪商店裏側になる路地の生コショウ専門店「ペッパーズカフェ」では、生コショウのおいしいレシピ紹介も兼ねてサンドイッチ、もちもちした生地のピザなども提供して朝6時半から午後5時過ぎまで営業する。幅広い時間帯での営業で外国人の間の口コミで人気店となっている。「築地に行くんだけどどこがいい?」と紹介されて訪れる外国人客も少なくない。岩瀬優子社長(37)は「築地で夕方やっている珍しい店だから足を運んでくれるのかも」と話し「ピザの注文をしていただいたイスラエル人の男性が『とてもうまかった。ミシュランに紹介しなきゃ』って。そういうのはうれしいですよね」と話す。この日も朝から客足は途切れることなく席が埋まっていたが、ほとんどが外国人客だった。

築地場外エリアの約500店が加入するNPO団体「築地食のまちづくり協議会」では、GWで盛り上がる状況について「昨年11月から外国人のお客さんもそうですが、国内でも旅割り制度も復活してコロナ禍以前に戻りつつあります」と話し「年明けから週末は1万5000人ぐらいは入るようになった。このGWはその倍の3万人ぐらいじゃないでしょうか」と語った。【寺沢卓】