国立健康危機管理研究機構(JIHS)は7日、南大西洋を航行中のクルーズ船で発生が報告された「ハンタウイルス」について、今回の事例を原因として日本国内で感染する可能性は「極めて低いと考えられる」とする文書を公開した。

国立健康危機管理研究機構は昨年4月、国立感染症研究所(NIID)と国立国際医療研究センター(NCGM)が統合して発足した専門機関。

同機構は今回の事例について「2026年5月2日、南大西洋上を航行中のクルーズ船におけるハンタウイルス感染症の発生がWHOに報告された。船は4月に南米、南極圏を航行し、5月6日時点でアフリカ沖に停泊中であり、今後カナリア諸島へ向かう予定とされている。WHOによると5月4日時点でハンタウイルス感染症の症例7例(確定例2例、疑い例5例)が報告され、うち3例が死亡している。確認されている症例は当該クルーズ船関連に限定されている」と説明した。

その上で「感染源等の特定のため疫学調査や接触者の調査が今後必要であるが、乗船者の適切な管理(感染管理・接触者調査・健康観察)が実施されることにより、さらなる感染拡大のリスクは限定的にとどまると考えられる」とした。

また「ハンタウイルスの自然宿主は、ウイルスの種類ごとに特定のげっ歯類が決まっており、自然宿主となるげっ歯類が生息していない地域にウイルスが入り込んでも、自然界の感染サイクルは成立しない。北米ではシカネズミ、南米ではピグミーライスラットなどがウイルス保有動物として知られているが、これらのげっ歯類は日本国内には生息していない」と紹介。「今回の原因ウイルスは検索中であるが、当該船舶は南米から出航していることから、日本国内で本事例の原因となったハンタウイルスに感染する可能性は極めて低いと考えられる」との結論を示した。

また、ハンタウイルスの特徴もあらためて説明。「ハンタウイルスは、ハンタウイルス科オルソハンタウイルス属のウイルスの総称である。ユーラシア大陸に分布するハンタウイルスは腎症候性出血熱を、南北アメリカ大陸に分布するハンタウイルスはハンタウイルス肺症候群を引き起こすことが知られている。腎症候性出血熱については、日本国内では1970年代から1980年代に実験用のラットから感染した報告はあるものの、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)の施行された1999年以降国内での感染事例は報告されていない」とこれまでの経緯を記した。さらに「なお、ハンタウイルス肺症候群についてはこれまで日本国内での患者発生の報告はない」と補足した。

ヒトからヒトへの感染の可能性についても触れた。「ハンタウイルスは本来げっ歯類が保有するウイルスであり、ヒトでは主にげっ歯類の唾液や排泄物との接触や排泄物を含む粉塵の吸入、排泄物で汚染された環境への曝露で感染する。基本的にヒトからヒトへ感染するものではないが、例外的に、アルゼンチンとチリで、ハンタウイルスの一種であるアンデスウイルスのヒト-ヒト感染事例が報告されている。ただし、これらは濃厚な曝露による飛沫・直接接触を介した伝播であり、適切な隔離と接触者管理により伝播の終息に至ったと報告されている」と、報告が特定の種に限られるとし「また、ヒト-ヒト感染はアンデスウイルスを除き報告されておらず、過去のアンデスウイルスの感染事例においても、適切な対応によりさらなる伝播抑制につながったことが示唆されており、国内でヒト-ヒト感染により感染拡大する可能性は低いと考えられる」と結論づけた。