競馬より馬が好きなんだな-。今回の「ケイバラプソディー ~楽しい競馬~」では原田竣矢記者が、今年のオークス3着馬タガノアビーなどを管理する千田輝彦調教師(56)の馬への思いに迫った。過去には騎手として、そして現在は調教師という立場で競馬に関わり続けるトレーナーは、管理馬に持てる愛情をすべて注いでいる。

千田厩舎の壁に設置されている大きな馬の絵(撮影・原田竣矢)
千田厩舎の壁に設置されている大きな馬の絵(撮影・原田竣矢)

千田師の話を初めて聞いたのは5月。オークス取材の時だった。タガノアビーとパラディレーヌの2頭出しで臨む師に、アビーのことをうかがうと、調教師らしからぬ優しい本音がこぼれた。「無理させたからね。馬房で謝りたおしています。もう1回、東京まで行ってくれって」。アビーは東京競馬場でのフローラSを5着で終えた後、連闘で出走した矢車賞(京都)を勝って賞金加算に成功。中2週で向かったオークスでは10番人気で3着に入り、7番人気で4着だったパラディレーヌとの“伏兵コンビ”で存在感を示した。

千田厩舎の馬房の前に設置されている鏡(撮影・原田竣矢)
千田厩舎の馬房の前に設置されている鏡(撮影・原田竣矢)

管理馬に対してわが子のように接する千田師。その愛情表現は厩舎棟にも表れている。千田厩舎に足を踏み入れた時に、まず目を引くのが大きな馬の絵。そして、馬の目線の高さに設置された鏡だ。「栗東トレセンの馬房は対面じゃないから、この子たちはさみしく感じていると思う。鏡もそうだし、絵があるだけで安心できて、群れを意識できるかなと思う」。野生の馬が群れで生活することから考えを巡らせ、精いっぱいの環境作りに励む。その理由は、競走馬の1日のうちわずかな調教時間以外の「その他の時間」を大切にしているから。「ちょっとでも馬に良く思えることを厩舎でしたい。馬で食っている人間だから」。

千田師は88年に騎手としてデビューし、競馬の世界に足を踏み入れた。引退後、11年に調教師として第2の競馬人生を迎えた時、馬への向き合い方にも変化が生まれた。

千田厩舎の馬房の前に設置されている鏡(撮影・原田竣矢)
千田厩舎の馬房の前に設置されている鏡(撮影・原田竣矢)

「ジョッキーの時はアメリカまで行ったぐらいだから、競馬が好きなんだなと思っていたけど、調教師になって“競馬より馬が好きなんだな”と気づきました。だからこの子たちには、うちにいる間だけでも幸せでいてほしいし、頑張って勝ってくれたら、その次の子どもたちにつながる。その子どもたちが成績を出して、それで孫になって、厩舎に来てほしいね」

ともに生きるパートナーに、持てる優しさをすべて注ぐ千田師。「うらまれてはいないと思います」と、最後はやわらかい笑顔で締めくくった。

千田輝彦調教師(2023年3月撮影)
千田輝彦調教師(2023年3月撮影)

◆千田輝彦(ちだ・てるひこ)1969年(昭44)8月23日、神奈川県生まれ。88年に栗東・伊藤雄二厩舎所属で騎手デビュー。08年引退。JRA通算は4261戦278勝。重賞は00年札幌3歳S(ジャングルポケット)など6勝。1期上の武豊騎手に誘われ、米国遠征も経験した。調教助手をへて、11年に厩舎開業。先週終了時点でJRA221勝、重賞1勝。現在の主な管理馬はキミノナハマリア(牝5)、ダディーズビビッド(牡7)など。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)