現役最高齢、17歳馬マイネルバルビゾン(高知)の引退レースが近づいている。“ラスト2戦目”となるはずだった13日は右肩ハ行で出走取消となったが、那俄性(ながせ)哲也調教師(65)によれば症状は軽度で、ラストランに向けて大事を取ったとのこと。予定通り、9月最終週の出走を目指す。今回の「ケイバラプソディー」は奥岡幹浩記者が、“バル爺”の走りを見守り続けてきた杉浦和也オーナー(64)にインタビュー。愛馬との思い出をたっぷり聞いた。
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長い長い付き合いになった。マイネルバルビゾンを所有するシグラップ・マネジメントの杉浦代表は実感を込める。「この馬には、本当にいろいろなことを教えてもらったなあ」。白星を重ねた時期があれば、勝つことの難しさを実感する日々もあった。歓喜、苦悩、感嘆。さまざまな思いを味わった。
いわゆる一口馬主からステップを踏み、地方競馬で“1頭持ち”をするようになった頃、5戦未勝利で中央を抹消マイネルバルビゾンにめぐりあった。まずは佐賀に入厩した愛馬は、7戦6勝2着1回と快進撃。大井に移ったあとも連勝を伸ばした。クラスが上がるにつれて成績に波が出るようになったが、岩手所属となった5歳時に地元重賞を制覇。しかし南関東に戻ってしばらく経った頃、馬は次第に脚元を気にするようになっていた。深管骨瘤と呼ばれる疾患で「腱(けん)がモヤつくような状態だった」という。
そんなときに耳にしたのが、「高知なら、こういう馬の脚をもたせてくれるよ」という言葉だった。半信半疑で情報収集し、当時すでに付き合いのあった那俄性調教師にも相談した。
「そしたら『この程度なら、ぜんぜん問題ないよ』と。そして実際に預けてみたら、脚元もすっきりしてきて。高知の水が合ったのかもしれませんね」
高知転入初戦は8歳1月。「もう1年ぐらい走ってくれれば」。そんな思いは、いい意味で裏切られた。厩舎の献身的なサポートにも応え、マイネルバルビゾンは好走を重ねた。最上級クラスのA級へと昇格。年下の馬たちに混じって重賞にも出走した。
もっとも、相手が強くなれば、結果を出すことが難しくなる。加齢による衰えも否めない。次第に成績は下降。クラスが落ちたあとも、乏しい結果が続いた。10歳を超えると、走らせ続けることに否定的な意見も耳に入るようになってきた。しかし馬は、そうした声に反発するかのように11歳にして白星をマーク。まだまだやれると、自ら結果でアピールした。
「毎年1回は、どこかのタイミングで那俄性さんに聞くんです。『バルビゾンも、そろそろですかね』と。そのたびに『まだいけるよ』と返ってきて、話が終わっちゃうんです(笑い)」 年齢を重ねても馬体はぴかぴか。17歳になった今も若々しさを保ち続けている。
「こんなことをいうと情けないかもしれませんが、私よりも那俄性さんのほうが、バルビゾンに対する愛情は深いと思うんです。調教師や厩舎スタッフの方たちが、どれだけの情熱をこの馬に注いでくれたか。それは競走成績に表れてます」
脚元に不安があったはずの馬が、高知移籍後は何年にもわたり、コンスタントに月2走ペースで走り続けてきた。ただ出走するだけでなく、高齢になってからも毎年必ず馬券に絡み、ファンを沸かせた。
通算282戦23勝。思い出に残るレースは数え切れない。比較的最近のレースでオーナーが印象深かったのは、16歳にして連対を果たした25年3月の一戦。女性ジョッキーの浜尚美騎手を背に、2番手から2着に粘り込んだ。全盛期を彷彿させるレースぶりだった。「あのあたりから一層、応援の後押しを感じるようになりました」。阿部基嗣とコンビを組んだ次走も3着に入った。
走り続けることで、ファンの応援は大きくなった。いつしかインターネットでは、親しみを込めて「バル爺」と呼ばれるようになった。「あの愛称をつけてくれたのは誰なんでしょうね。ニックネームがあることで親近感が増し、応援の輪が広がっていると感じます」と目を細める。
ラスト2戦目となるはずだったレースは、大事を取って出走を取り消した。最後のレースも、もちろん無理をさせるつもりはない。とはいえ、できることなら見届けたい。これまで応援してくれた多くのファンと一緒に-。「大丈夫だと信じます」。引退レースは9月最終週の週末。いつも東京と北海道を慌ただしく往復するオーナーが、久しぶりに高知を訪れる。スタンドから愛馬へ声援を送り、その目に勇姿を焼き付ける。【奥岡幹浩】
◆杉浦和也(すぎうら・かずや)1962年(昭37)埼玉県生まれ、東京都出身。学習院大卒。85年野村證券投資信託委託(現・野村アセットマネジメント)入社。その後、外資系に転じ、パインブリッジ・インベストメンツ社長を務めるなどした。現在はシグラップ・マネジメント株式会社代表。競走馬生産にも携わり、馬主としてはシーテープ(川崎・クラウンC優勝)などを所有する。
◆マイネルバルビゾン 父アグネスデジタル、母マイネポリーヌ(母の父スペシャルウィーク)▽牡17▽馬主 シグラップ・マネジメント▽調教師 那俄性哲也(高知)▽生産者 ビッグレッドファーム(北海道新冠町)▽戦績 通算282戦23勝▽総獲得賞金 3814万円▽主な勝ち鞍 岩鷲賞(岩手重賞)▽馬名の由来 冠名+絵画の一派
(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)



