このコラムで福永祐一君について書くのは、実は2回目です。前回は一昨年にダービー3勝目を挙げた直後で、私は「いずれ調教師という次のステージに立つのも楽しみ」と書きました。なぜなら感覚を言語化して理論的に伝えられる能力が高いからです。さすがに、こんなに早く転身するとは思いませんでしたが…。

騎手という仕事はフィーリングが大事で、馬の背中の感触や仕掛けのタイミングなど、言葉で説明しづらい世界観があると思います。私たちがスタンドやテレビで競馬を見て「そこだ!」とか「そこか?」とか思っても、実際に乗っている騎手の感覚は分かりません。後から一緒に競馬を振り返る時に、感覚を言葉にして伝える力は重要です。

調教師になれば、自身の経験を後進の騎手や厩舎関係者へ伝えていく機会も増えます。豊富なキャリアを持ち、しかも説明がうまい人がいれば、多くのホースマンとの間で財産を共有することができます。「JRAの宝」といえる存在ではないでしょうか。

角居厩舎にもたくさんの勝利をもたらしてくれました。特に大きかったのはシーザリオのオークス(05年)です。開業当初から「海外へチャレンジしたい」と考えていましたが、オークスを勝ってくれたことで、初めての海外遠征となるアメリカンオークス挑戦が実現して、しかも圧倒的な走りで勝つことができました。海外へ踏み出す第1歩であり、私の運命も変えてくれた1勝だと思います。今でも感謝しています。

調教師を経験した者として、アドバイスになるかは分かりませんが、私が調教師になって痛感したのは「人はなかなか思い通りには動いてくれないな」ということでした(笑い)。“個人事業”の騎手から、従業員と一緒にやっていく調教師になれば、そう思う時もあるかもしれません。それでも、人柄も人当たりもいい祐一君なら、うまく乗り越えられるでしょう。馬をつくることについては心配ないと思いますし、あらためて楽しみにしています。(次回は3月17日に掲載予定)