3~4コーナーでママコチャが先に動いた瞬間、これは最後に苦しくなる-と思いました。わずか1分数秒のスプリント戦です。騎手には瞬時の判断が求められます。好位を追走していた川田騎手は、ペースが落ち着いたところで手綱を引っ張らず、そのまま前に行かせました。直線入り口で2番手。そのまま先頭に立ち、やはり早いと思いましたが、最後は追ってきたマッドクールに鼻差で押し切りました。結果的に、先に動いたあの判断が最大の勝因です。さすが、リーディングジョッキーでした。

流れは意外に落ち着きました。複数の先行馬がもっと競るかと思いましたが、ジャスパークローネが外からハナに立ち、前半3ハロンは33秒3。後半が34秒7ですからハイペースはハイペースですが、前崩れになるほどの激流ではありませんでした。その結果、好位勢が1~3着を占め、後方待機組は出番なし。抜群のスタートを決めて、早めに動いたママコチャに軍配が上がりました。

1200メートルに距離を詰めてわずか2戦目でのG1制覇です。1400メートルやマイルでも勝利していますが、掛かる面のあるタイプでした。距離短縮が奏功しましたし、適性が高かったのでしょう。一般的には、いったん詰めた距離を再度延長すると、折り合いが難しくなるといいますが、馬によっては速いペースで気楽に走らせたことでレースを覚え、距離を延ばしても折り合う場合もあります。脚質は違いますが、私が管理したデュランダルもスプリンターズSで重賞初勝利を飾り、マイルCSも勝ちました。ママコチャの今後の路線選択を楽しみにします。

1番人気ナムラクレアは3着に敗れました。勝ち馬が動いた3~4コーナーで、前や横に馬がいた分でしょうか、若干手応えが鈍りました。直線はまた伸びていましたし、競馬としては好位から理想的な形。運が少し向いてくれればG1もすぐに勝てる馬ですが、惜しい競馬でした。

2着マッドクールは10番から内をさばいてきた坂井騎手のエスコートが光りました。(JRA元調教師)