勝負事というのは、本当に最後まで分からない。劣勢だった阪神が、大山のひと振りで逆転サヨナラ勝ち。劣勢だった試合展開をはね返しての逆転勝ちだった。チームの大ピンチを救う値千金の1発だった。

阪神ベンチには、余裕がなかった。1点をリードした6回表1死三塁、打席に岡本和を迎えて内野は前進守備をとった。ここでの前進守備は「1点もやりたくない」というベンチの意思表示だが、まだ4イニングの攻撃が残っている。「同点は仕方ない」と腹をくくって、前進守備ではなく内野は後ろに守らせ、岡本和を抑えることに集中した方がいいと思っていた。

ガンケルと梅野のバッテリーも、ベンチの意思を感じていたはず。岡本和への初球と2球目は内角高めの速球で、中途半端なスイングのファウルと見逃しのボール。カウント1-1から外角低めを見逃されてボールになった。そして4球目は再び内角高めの速球を、岡本和に逆転2ランを打たれた。この1発は、打った岡本和の技術を褒めるべきだろう。しかし、阪神バッテリーが「岡本和を抑える」よりも「1点もやらない」を優先していなければ、このような攻め方にはならなかったと思う。

ガンケルという投手は、もともと低めにボールを集め、ゴロを打たせるタイプ。前進守備をとっているのだから、岡本和を迎えてもゴロを打たせにいけばよかったが、前進守備の間を抜けてタイムリーを打たれるのが嫌だったのだろう。あえて高めを要求し、内野フライか空振り狙いで「1点もやらない野球」を狙ってしまった。この攻めがガンケルの持ち味を消し、岡本和の1発につながってしまった。

前進守備をとって失う失点はダメージが大きい。しかも1点を惜しんで2点を失ったのだから、ダメージはなおさらだろう。そんな劣勢の展開で、しかも9回裏は巨人のストッパー・ビエイラだった。無死一塁、カウント1ボールからのど真ん中の真っすぐだが、この場面での大山の逆転2ランは、見事というほかない。劣勢のチームを救い、そして大山の復調につながる1発になれば、阪神の逆転優勝の可能性も大きく膨らんでくる。(日刊スポーツ評論家)

阪神対巨人 9回裏阪神無死一塁、大山はサヨナラ左越え2点本塁打を放ち手を挙げる(撮影・上山淳一)
阪神対巨人 9回裏阪神無死一塁、大山はサヨナラ左越え2点本塁打を放ち手を挙げる(撮影・上山淳一)
阪神対巨人 9回裏阪神無死一塁、大山がサヨナラ左越え2点本塁打を放ち、盛り上がる阪神ナイン(撮影・上山淳一)
阪神対巨人 9回裏阪神無死一塁、大山がサヨナラ左越え2点本塁打を放ち、盛り上がる阪神ナイン(撮影・上山淳一)