阪神が優勝するときは、独走している。個人的な印象かもしれないが、混戦のV争いや終盤に巻き返すような逆転Vを決めるイメージがない。どうしてなのか? この試合にはその要因がいくつも見受けられた。

先制点を与えた初回2死一塁、打席に村上を迎えて内野陣が右側に極端にシフトした。ここで気になったのが外野の守備位置で、内野は極端に右に寄っているのに外野は定位置のままだった。打球は右中間へ飛び、一塁走者の山田はホームインした。

この状況だと、優先するのは一塁走者をホームにかえさないこと。内野は三塁線と三遊間が空くため、レフトが定位置なのは理解できるが、村上の打球方向を考えて内野を右寄りにシフトしたのだから、センターは定位置より右に寄るべきだった。ホームはクロスプレーだっただけに、少しでも右に寄っていればアウトにできただろう。

2回2死には、カウント1ボールから西浦に内角のカットボールを左翼ポール直撃の本塁打を打たれた。2アウトであり、西浦は外角球を本塁打する力はない。1発を狙っていい場面で打者有利のカウント。しかも絶対に負けられない相手であり、ペナント終盤での戦い。正捕手の梅野なら投げさせてはいけない球だった。

1点に詰め寄った5回裏の守りも疑問があった。1死二、三塁から内野は前進守備。最近はどこのチームも前進守備をとる傾向が強いが、個人的にはあまり好きではない。走者が三塁だけならいいが、二塁にいて外野へヒットが出ると、2点を失う確率が高くなる。この状況で前進守備にするなら、二塁手か遊撃手のどちらかがけん制に入れるような位置で、二塁走者のリードを小さくするか、思い切って外野も前に守らせるようにした方がいい。結果的にも中間守備か定位置ならセカンドライナーでアウトだったが、ライト前への2点タイムリーになった。

さらに言うなら、先発の奥川は完投を考えにくい投手。現在のヤクルトの弱点は抑えのマクガフで、2点差までなら逆転できる可能性はある。三塁走者よりも、二塁走者をかえさないように考えたほうが良かったと思う。1点をやらないようにして2点を失うダメージは大きく、3点差がついてしまった。

優勝するチームは、リーグの代表でもある。終盤戦での全力プレーは当たり前だし、ペナント序盤から中盤にかけてチームに出てきた反省点をどれだけ修復しているかが勝負を分ける。極端なシフトをとっても、セオリーを考えなければいけない。特殊なポジショニングをとる場合はベンチから細かい指示を出し、確認する必要もある。手痛い1発も防げるシチュエーションを考えなければいけない。前進守備をとるタイミングも、9イニングを戦う上で判断するべきだと思う。すべてを完璧にするのは難しいが、そういったささいな注意点の蓄積とどう向き合ってきたかがペナント終盤戦の戦いを分ける。ヤクルトのいいところが目立ち、阪神の弱点が出た試合だった。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対阪神 2回裏ヤクルト2死、西浦に左越えソロ本塁打を浴びる高橋(撮影・鈴木みどり)
ヤクルト対阪神 2回裏ヤクルト2死、西浦に左越えソロ本塁打を浴びる高橋(撮影・鈴木みどり)