道具を通じて感じたものがあった。西武山田遥楓内野手(21)は宮崎・南郷キャンプ中、辻監督のグラブを手にする機会を得た。恒例になっていた早出の守備練習の時だった。ノックを見てもらっていた辻監督から「お前のグラブ、音が鳴らないな。俺のを使ってみろ」と手渡された。

 言われるがまま、使ってみた感想は「“名手のグラブ”って感じでした。僕は三塁、ショートなのでタイプは違いますが、開いてて、当て捕りがしやすいですね」。打球をグラブでつかむのではなく、土手に当てて、即座に右手で握り送球する“当て捕り”。技術を要するが、ボールを握り替える時間が短縮できる。左手にはめたグラブから、ゴールデングラブ8度の名二塁手のすごさが伝わってきた。

 辻監督のグラブと言えば、“辻トジ”だろう。現役時から担ってきた久保田運動具店(久保田スラッガー)の用語だ。小指の付け根部分にトジヒモを加えることで、捕球面が通常より広がるようになっていた。独特の形状を指す名称として、使い手の名前が用いられた。同社担当者は「辻さんは手のひらが大きかったから、可能だったんです」と話してくれた。選手1人1人に合わせ、最高の道具を求めた結果、生まれたものだった。

 実は、引退してからのグラブには、辻トジは施されていないという。それでも山田は、捕球面が強調されたグラブを味わい「“山田トジ”て言われるようなもんでしょう」と、うなった。余談だが「そのまま、もらおうと思った」ら、「ちゃんと磨いたか?」と言われ、ノックの後に泣く泣く? 返したそうだ。

 練習中に声を絶やさない元気印は、4年目で初のA班(1軍)キャンプスタート。目下の目標は、3月3日のオープン戦だ。辻監督の郷里・佐賀での広島戦。山田にとっても、佐賀は故郷。その先に、もちろん、1軍デビューを目指している。【西武担当 古川真弥】