今月5日、弊社に新入社員として入社した久永記者が、ヤクルト-ソフトバンク戦の取材をするために神宮に来た。上司からは取材方法や原稿作業など、可能な範囲で指導してあげるようにと託されていた。スーツ姿で緊張気味の青年に、真っすぐな瞳で「よろしくお願いしますっ!」と初対面のあいさつを受けた。背筋がピンと伸びた。

 年齢差は17歳。ジェネレーションギャップは否めない。何からどう始めればいいのか。6月になると、新入社員の仮配属が決まる企業は多いと思う。記者と同じような立場の同世代も、きっといることだろう。新人の指導といえば…ということで、ヤクルト小川淳司監督に“助言”を仰いだ。

 小川監督は1軍監督だけでなく、スカウト、2軍監督、ヘッドコーチ、シニアディレクターなど、あらゆる立場を歴任し、自身の子どもよりも若い選手とも多く接してきた。今の1軍選手は、ほぼ2軍監督時代に指導している。いわば、指導の“スペシャリスト”といえる。神宮室内での練習後、久永記者と2人、クラブハウスまで小川監督の隣を歩きながらの「ぶら下がり取材」を敢行した。小川監督はまず久永記者の質問に耳を傾け、新社会人としての心得を助言してくれた(詳細は7日付本紙での久永記者による記者コラム『We love Baseball』で掲載)。

 話が一段落してから、今度は「指導する側」の心得も聞いてみた。「そうか、こんなに年の離れた後輩を指導するような年齢になったんだね」と、ほほ笑みながら語りはじめた。

 小川監督 「今の若い子は」っていう言い方はしたくないけど、感覚の違いはあると思う。たとえば、言っている時は「はい!」と一生懸命聞いてくれて、言われた通りにできる。でも、また同じ状況になった時、言ったことを覚えていないというのがあるかな。話を真剣に聞いているんだけど頭に残っていない。無意識なんだろうけど、聞いたことが右から左、というかね。時代も変わって、生活も自分のころとはまったく変わっている。環境がそうしているのか、何でかは分からないけど、若い選手に特に多い気がするかな。

 とはいえ、60歳の指揮官には年齢差のある選手(部下、後輩)と接する時、肝に銘じていることがあるという。指導する際の心構えを教えてくれた。

 小川監督 やりやすい環境をつくってあげること。それだけだと思うよ。やり方を1つ1つ、手取り足取り教えてあげる必要はないんじゃないかな。大事なのは、何を教えるかではなくて、教えられる方が何を感じるか。感じ方は人それぞれで違う。仕事のやり方も、人によって違う。だから、今日は取材をしている姿を見せてあげるだけでいいんじゃないか。それで何を感じるか、感じられるかは、その人次第だからね。いつも通りでいいと思うよ。

 頑張るのは大事だが、力む必要はない。大きく見せる必要はない。背伸びをする必要はない。指導する側も、される側も。今、自分にできることは何なのか。小川監督の話を聞き、頭の中がクリアになった。記者が授かった指揮官の言葉は、どんな世界で働く同世代にも当てはまる金言になり得るはずだ。働く姿で、思いを伝える-。いくつになろうが、自分の仕事と真剣に向き合い、精進したい。【ヤクルト担当 浜本卓也】