ちょっとしたしぐさをとらえて、選手の素顔を伝えるのも野球記者の仕事の1つだ。普段から近くで接する機会に恵まれている。つい先日、ちょっと感心したことがあった。甲子園での試合前練習。投手陣がグラウンド入りする右翼ポール際に座っているとフェンス越しにカタンと音がした。

ふと見ると、手だけが壁側に伸びて、空き缶を置いている。にゅっと顔を出したのは赤髪のガルシアだった。きっとリリーフカーが通る通路に落ちていた空き缶を拾って、スタッフが掃除しやすいように気を配ったのだろう。目があった。ニコッと笑った。たったそれだけだけど、丁寧に生きてきた人なのだと思った。

この光景を見て、駆けだしの頃に読んだ記事を思い出した。05年の2月。沖縄・宜野座キャンプ中の一コマだ。ウエート室の入り口がシューズで乱雑になっていた。これを見て、アンディー・シーツが「老舗旅館の仲居さんのように、部屋の奥から膝立ちで振り返って一足ずつそろえて並べた。きちんと整理し終えてから、筋トレに向かった」と、先輩記者が書いている。

たったそれだけだけど、折り目正しく生きてきたシーツ氏(現阪神駐米スカウト)の人間臭さがにじみ出ている。なぜだか、いまも覚えている記事の1つだ。広いグラウンドのどこを切り取るか。見たことを受け流さずに心に留める。忙しくなると、つい見失いがちになるけれど、大切なことだと自戒を込めて記しておきたい。【阪神担当 酒井俊作】

阪神時代のシーツ氏(2007年9月9日撮影)
阪神時代のシーツ氏(2007年9月9日撮影)