ベンチの頼れる“新戦力”は兄貴肌だった。今季からオリックスに加入した梵英心打撃コーチ(40)は、親身に選手と寄り添う。

早出練習では打撃投手としても打者と向き合い、二遊間のノックではノッカーではなく併殺練習の相手役を務める。そんな梵コーチは「こう言ったら変なのかもしれないですけど…」と前置きした上で「(選手と)友達感覚でいるので、僕は。コーチという名前はありますけど、選手により近い感覚で寄り添おうと思っています」と明かした。

20代前半の若手選手らと目線を合わせる。梵コーチは昨季まで社会人野球のエイジェックやJFE西日本でコーチを経験。20代選手がほとんどで「『どういう風にすれば壁がなくなるのか』と常に自問自答しながらやっていた」と、選手との距離感を日々考えていた。その結果…。「コーチという肩書が、一番邪魔している。だから、自分の中で取り除けばいい」と答えを見つけ「一緒に練習しながら、言葉と体で教えていく」と梵コーチなりの指導方針を固めた。

梵コーチは05年大学・社会人ドラフト3巡目で広島に入団。地元の三次高から駒大、日産自動車を経由した野球エリートは、入団1年目から123試合に出場し、打率2割8分9厘、8本塁打、36打点を記録し、新人王に選ばれた。その後、遊撃のレギュラーに定着し、10年には全144試合に出場。打率3割6厘、13本塁打、56打点と好成績を残し、43盗塁を記録して盗塁王を獲得。堅実な守備も評価され、ゴールデングラブ賞にも輝いた。

社会人野球でコーチ経験を積み、今季からはオリックスに入閣。「ここはプロなので。そういう風な感じ(近い距離感)だけで(指導を)しようとは思ってない。ただ、ある意味で友達感覚で(練習に)付き合おうと思ってます」と、自身のコーチ経験を上書き保存している。

京セラドーム大阪での試合前練習では、トス打撃で打撃指導する姿が目立つ。基本的にトスは裏方スタッフでなく梵コーチがあげ、早出練習では19歳の紅林と二遊間を組んで連係練習のパートナー役も務める。「コーチだからといって、偉そうなことを言うつもりはない」。その言葉が、胸に刺さる。

試合直前のベンチではファイルを持って、座っている選手の隣にそっと座る。凡退しても「選手にミスはありますから。僕も選手をやっていましたから、わかります。(ミスは)やろうと思ってやる選手はいない」。声かけの重要性を説き「耳に入るように、どう言葉を掛けるか。ミスした後、次にどう取り組めるようにやっていくか」と前向きな言葉を選ぶ。

“寄り添う指導”は、着実に成果をあげている。今季チーム打率はリーグトップタイの2割5分6厘。チーム本塁打数60も、トップのロッテと4本差。昨季リーグワーストだった得点力が向上し、投手陣を援護しているのは間違いない。

梵コーチは「まず僕はオリックス1年目。選手は(春の)キャンプから見させてもらった。最初に思ったのは(素材が)いい選手が多いなと、正直に。何も考えず客観的に見て」と明かした。その後、データ分析を行い「去年の得点数を見たときに『かみ合ってないな…』と。打つからには得点しないと勝てない。そこをどうするか」と首脳陣とスタッフ会議を綿密に行い、工夫をしてきた。

「細かい野球だったり、大胆な野球をミックスさせようと。打ちにいきながらファウルを打って、ボール球を見逃せるのが今のベストなのかなと思ってます」

言葉通りなら、高度な野球技術だが、ナインはついていっている。4日中日戦(バンテリンドーム)では大野雄に2回までに59球を投じさせ、6日の中日戦では福田が1打席で16球粘った。12日広島戦(京セラドーム大阪)でも先発森下に2回までに52球を投じさせ、白星をつかんだ。

「打てるボールをコンタクトする。打てなかったらファウルを打って、もう1回勝負していく」

職人気質の高い安達、主砲の吉田正らがファウルで食らいつき、最終的にヒットを放つ打席が、若手選手の目の前にある。「他の選手(の打席)を見て『あ、そうやってうまく打っていくんだな』と。だから、モチベーションは高いんじゃないかなと。相乗効果として、チームはうまくまわっている」。梵コーチの言葉には、説得力がある。【オリックス担当=真柴健】