どうしても聞かずにはいられなかった。ロッテ佐々木朗希投手(20)の完全試合から2日たった12日。阪神2軍が試合を行った鳴尾浜で、藤田健斗捕手(20)に投げかけた。

あの163キロの感触はどうだったのか-。

「正直、受けている球が全球速かったので、何キロくらい出てるんかなと思いながら試合に出てました」

19年4月6日。中京学院大中京で主将だった藤田は、U18日本代表候補の「国際対応研修合宿」に参加。そこで、大船渡・佐々木朗希が投じた国内高校生史上最速の「163キロ」を受けることになる。

ズドン。体全体で受け止めたその1球は「出てるかなという威力はありました」。強豪校で捕手を務めた男も当然、163キロは未知の世界だったはず。それでも、「出てるかな」と確信に近い感情が湧き出るほどの剛速球だった。「それまでの野球人生で一番でした」。当然のようにそう付け加えた。

これまで、何度も取材で問われ、回想してきただろう。にもかかわらず、言葉には新鮮味があった。

「その日の紅白戦が終わってから、163キロだったって、そういう話を耳にしたんです」

驚いたと同時に、納得もしていた表情だった。

試合後のトレーニングで息を切らしながらも応じてくれた藤田の口調は、マスク越しにさらに熱を帯びた。「やっぱり、日本を代表するレベルの人たちと野球やっていたんで、いい経験になりましたね」。

2日前の快挙はダイジェスト映像でチェック。快挙を喜ぶのもつかの間、野球人として当然の気持ちにもなった。

「もちろん、すごいことですけど、同級生として負けていられない、という気持ちにもなりました」

あれから1102日たっても、163キロの衝撃は、確かに左手が覚えている。それは、いつでも藤田を奮い立たせてくれる。【阪神担当 中野椋】